神に選ばれなかった者達 前編

…ん?

その時、俺はとあることに気づいた。

そこに転がってる…血まみれの椅子。

「あれ、俺の椅子…」

「えっ…?」

「…いや…」

その向こうに転がってる机。あれも、俺の机だ。

雨野リリカが屋上に捨てたもの…。

現実で捨てたそれが、夢の中に干渉して…。

この少女が…ゾンビを倒す為の、武器になった。

…なんてことだ。

俺の机と椅子が…役に立つなんて。

「…今回ばかりは、雨野リリカに感謝だな…」

「雨野…リリカ?誰?」

「いや、こっちの話だ…」

それから、俺が屋上で机と椅子を見つけた時、さっさと帰るように言ってきた教師にも感謝だな。

…まぁ、そのせいで俺は、肩を砕かれた訳だが…。

「あの…ごめん、さっき…殴っちゃって」

「ん?いや…」

「痛い…よね?大丈夫…?」

人の肩を砕いておいて、今更大丈夫も何もないが。

彼女としても、わざとやったことではない。

こんな状況に置かれれば、誰だって混乱もする…。

気持ちが分かるだけに、批難することは出来なかった。

「…別に気にしなくて良い」

自分の椅子で殴られたのは、ちょっとショックだったけどな。

「あ…あの…」

「何だ?」

「あなた…も、同じ夢を見てるの…?この世界は何?何か知ってる?どうして私、こんな夢を見るようになったの?」

血相を変えて、質問攻め。

何故だか、妙に懐かしい気分になった。

いや…自分もかつては、そうだったのかと思って…。

「…お前、いつから悪夢を見るようになった?」

「えっ?」

「何日前からだ?覚えてるか?」

「…一週間…くらい、前」

とのこと。

一週間前…。

ということは、俺達がゴミステーションの前に落とし穴を建設していた頃だな。

あの頃から、この少女もここに…夢の中にいたのか。

「何処に居たんだ?その間」

「ここ。屋上…」

「成程…」

俺達と一度も遭遇しなかったのは、彼女がずっと、屋上に立てこもっていたからか。

「毎日、ずっとここで…あのゾンビに食べられて…怖かったの。それに、昨夜は…いつもと違って、焦げ臭い匂いもして…」

「それは…。…悪かったな」

俺達のせいだな。

幸い、屋上までは燃えていなかったようだが。

下の方で俺達がごそごそやってるのを、何が起きているのか分からずに、余計に恐怖を煽り立ててしまったようだな。

それは申し訳ない。

まさかここにもう一人いるなんて、想像もしていなかったのだ。