神に選ばれなかった者達 前編

…その日の夜。

いつもなら、俺は真っ先に、『処刑場』の仲間達と合流する。

だが、今夜はそうしなかった。

眠りにつく前、現実で、『処刑場』の掲示板を確認してみたところ。

相変わらず、仲間達が書き込みをしていた。

内容は、今朝と大して変わっていない。

放火作戦が失敗したのは残念だったが、今夜また集まって、新しい作戦を考えよう、とのことだった。

前向きな言葉だったが、やはり、俺は返事をしなかった。

彼らには悪いが、俺は一人になりたかった。

例えゾンビに食い殺されたとしても、どうでも良かった。

何処に行けば、静かに、一人になれるだろうか。

校舎一階〜三階にはゾンビ達が集まっているし。部室棟には恐らく『処刑場』の仲間達が集まっているだろうし…。

…そうだ、と俺は思い立った。

屋上だ。

屋上なら、ゾンビはいない…かどうかは分からないが、いたとしても多分、大した数ではないだろう。

仲間達も屋上までは来ないだろうし。

そう思い立って、俺は仲間と合流せず、屋上を目指した。

階段から屋上に繋がる扉は、相変わらず、鍵がかかっていなかった。

ドアノブを捻り、屋上に一歩踏み出した、

その時。




「いっ…いやぁぁぁぁ!!」

「!?」

凄まじい、甲高い悲鳴と共に。

他校の制服を着た女子生徒が、思いっきり、振りかぶった椅子を振り下ろしてきた。

その椅子を、俺はすんでのところで回避した。

あとコンマ数秒でも遅かったら、振り下ろされた椅子にしたたかに頭をぶつけていたことだろう。

助かった。

いや、助かったのか?

慌てて、女子生徒の方を向くと。

俺に攻撃を避けられたことで、半狂乱になっていた。

「いやっ!いやぁぁっ!!」

悲痛な叫び声をあげつつ、血まみれ、ぐちゃぐちゃの粘液まみれの椅子を振り上げては、何度も殴りつけてくる。

俺は必死に避けた。

「ちょっ…まっ…!俺は、敵じゃ…」

「来ないでっ…こっちに来ないでぇぇっ!」

駄目だ。完全に正気を失っている。

とにかく何とか落ち着かせなければ、と思ったが。

「来ないでっ!!」

「…いっ…!」

ついに、振り下ろされた椅子を避け損ない。

したたかに、左腕の肩を殴られた。

バキッ、と嫌な音がしたが。

その拍子に、手に持っていた錐を取り落とした。

カラン、と落ちた錐を、女子生徒は目を真ん丸にして見つめていた。

「え…。な、何…?これ…?」

…錐を知らないのか?