神に選ばれなかった者達 前編

以前机がなくなった時は、午前中だけ床で授業を受け、体育の授業の時間にゴミステーションに机を探しに行ったものだが。

今日は、そんなことをする気にもなれなかった。

こんな日に限って外は雨が降っているし、それに何より。

ゴミステーションに行くということは、調理実習室の近くに行くということになる。

もうあの部屋を見たくなかった。

だから、昼休みも床で昼食を摂ったし、午後の授業もそのまま床で受けた。

雨野リリカ他、クラスメイト達は大ウケを通り越し、ちょっと引いていた。

引くくらいなら、捨てなければ良いのに。
 
まさか、俺がこのまま、椅子と机のないまま生活するとは思ってなかったんだろうな。

大抵の教師達は、床で授業を受ける俺を、そのままスルーしていたけど。

六時間目の古典の女教師は、俺を見て顔をしかめた。

「あなた、何で床に座ってるの?」

当然の質問だが。

「…分かりません」

俺はそう答えた。
 
「椅子は?机は?何処にやったの?」

「それも分かりません」

「…はぁ…」

そんな、呆れたような溜め息をつかれても。

別に俺が捨ててきた訳じゃない。

学校に来たら、なくなってただけだ。

「何でも良いけど、とにかく明日までには戻しておきなさいよ。みっともないったら」

と、女教師は命令口調で言った。

それを聞いて、雨野リリカが含み笑いしているのが見えた。

…俺に言われても…。

石の上にも三年と言うことだし、何だか床で授業を受けるのも慣れてきたから。

いっそのこと、無用なトラブルを避ける為にも、何なら明日からもこのままで良いか、と思い始めていたところだったのに。

教師に命じられれば、このままにしておく訳にはいかなかった。