神に選ばれなかった者達 前編

…自分が昨夜、放火したばかりの校舎に登校するとは。

なんとも奇妙な気分だな。

あれは夢の中での話であって、現実にはまったく影響していない。

それは分かっているが、何となく、校舎が焦げ臭いような気がしなくもなかった。

昨日の悪夢のせいで、精神的に不安定になっている俺に。
 
今日、最初の試練が訪れた。

自分の教室に入ると、またしても。そうまたしても。

俺の机と椅子が、忽然と姿を消していたのである。

…。…またか。

教室を間違えただろうかと、改めて廊下に出て確認してみたが。

やっぱり間違えてない。ここで合ってる。

それに何より、俺が登校してきたのを見て、あからさまににやにやとしている雨野リリカが教室にいることが、何よりの証拠である。

犯人は…間違いなく彼女だな。

毎日毎日、ご苦労様なことだ。

「…何処にやったんだ?」

俺は、雨野リリカにそう尋ねてみた。

「さぁ?何のこと?」

との返事。

白々しいことこの上ない。

飽きもせず、また俺の机と椅子を、えっちらおっちらとゴミステーションに捨てに行ったのだろうか。

結構重かっただろうに。

俺に嫌がらせをする為なら、多少自分が大変な思いをしても、その程度の労苦は厭わない、と。

あっぱれないじめっ子精神だ。

なら、俺はそんな雨野リリカに敬意を評して。

俺は、自分の机があったはずの場所に、そのまま体育座りした。

仕方ないから、今日はまた、このまま床に座って授業を受けるとしよう。

こんなこともあろうかと、机の横に体操着をかけてなくて正解だった。

そんな俺を見て、雨野リリカ他、クラスメイト達は大爆笑だった。

「マジかよ」

「勇気ある〜」

「ウケるんだけどw」

笑わせたつもりはないんだが、一体何にウケてるんだ?

こんなつまらないことで笑えるなんて、彼女達は幸せ者だな。

そして羨ましい。

あんな風に笑えたら良かったんだけどな…俺も。

すると、そこに担任の教師がやって来た。

「…ん?何だ、萩原。また机をなくしたのか?」

と、聞いてきた。

なくしたって…。俺がなくした訳ではないんだが。

「先生、萩原君は床で授業を受けたいそうですよ」

俺の代わりに、何故か雨野リリカが答えた。

俺、そんなこと一言も言ってないんだが。

「ふーん、まぁ好きにすれば良いが…授業の邪魔だけはするなよ」

納得するのか。それで。

それきり、教師は興味を失ったように、一切俺のことには触れなかった。

俺も何も言わず、その日は床で授業を受けることにした。