神に選ばれなかった者達 前編

これだけで済めば、ただの悪夢で終わっただろう。

しかしそれは、悪夢ではなかった。

ただの悪夢ではなかったのだ。









「…え?」

気がつくと、俺はまたしても、教室の中にいた。

左手には、錐が一本。
 
…。

…生きてる。

俺は、恐る恐る自分の喉元に触れた。

先程ゾンビに食いつかれたはずの場所は、何事もなかったように治っていた。

「…何だったんだ…。今のは…」

この問いかけは、これから先、何度も抱くことになるのだが。

これが、記念すべき第一回目だった。

食いつかれた喉元の痛みは、記憶の中に生々しく残っていたが。

あれは今や、現実ではなかった。

何事もなかったように、もとに戻っている。

まるで、ゾンビに襲われる前の状況にタイムリープしたかのようだ。

有り得ない。そんな非化学的な現象…。

…しかし、その時。

再び、誰かが教室の扉を殴りつけた。

「!!」

ドン、ドン、と聞き覚えのある音で叩いてくる。

…まさか、またさっきと同じ?

そんな馬鹿な。それじゃ本当に、タイムリープしたかのような…。

…でも、もし本当に、そうだとしたら。

時間が戻ってしまったのであれば、この扉の向こうにいるのは、また…。

今度は、俺は扉に近寄ることは出来なかった。 

一歩、二歩と後退り、この先に待ち受けるものに怯えていると。

またしても、扉がくの字に曲がって倒された。

そこに現れたのは、先程と同じ、グロテスクな様相のゾンビ。

そして、逃げる隙もなく襲いかかってきた痛みもまた、先程とまったく同じものだった。