神に選ばれなかった者達 前編

何とか、燃える調理実習室から脱出。

しばらく走ってから、振り向くと。
 
そこには、燃え盛る校舎と、ゾンビ達の断末魔の悲鳴が…。

…聞こえてくることはなかった。

「…あれっ…?」

予想だと、もっとぶわーっと燃え上がるものだと思っていたんだが。

一見すると、全然燃えてるように見えない。

「あれっ…?火、ついてないの…?」

空音妹もびっくり。

いや、自分、ちゃんと火をつけたぞ。確かに。

「ふぁにさん、見えますか?」

「あ、あぁ…」

目を凝らして、調理実習室の窓を見ると。

ちらちらと、赤く揺らめくものが見える。

間違いない。あれは火だ。炎だ。

「燃えてる。確かに火事になってる」

「ほ、ほんとですか…?その割には…何だか…」

「…火の勢いが弱いな」

それだ。自分の言いたいこと。

もっと派手に燃え上がるものだと想定していたが。

よく考えたら、床に撒いてあるのはガソリンや灯油じゃない。

やっぱり、サラダ油じゃよく燃えなかったか。

すぐ大火事になると思って、急いで逃げた自分達が馬鹿みたいじゃないか。

「ゾンビは…肝心のゾンビは?どうなってる?燃えてるか?」

李優くんが尋ねた。

そう。火事の程度なんかどうでも良い。

焚き火の規模でも、ゾンビが燃えてるならそれで良いのだ。

「えぇと…」

窓の向こうでは、小規模ながら燃え上がる火を前に、ゾンビ達が恐れおののき。

炎を怖がって、逃げようとしている姿が見えた。

中には、火に巻かれて、苦しんで蠢いているゾンビもいた。

くるくると踊っているようにも見える。ゾンビ、苦悶のダンス。

…ってことは、火が苦手なのはやっぱり本当なんだな。

「…何匹かは燃えてる。けど…」

折角集めたゾンビ達だが、火の勢いが想定より弱いことが仇になっていた。

多くのゾンビ達は、火を怖がって調理実習室から逃げようとしていた。

集めた意味がない。

…どころか。

「…!げっ…!こっちに来るぞ!」

徐々に燃え広がる炎に、恐れを為したのか。

ゾンビ達は、ふぁに達が開けっ放しにしていた窓から、続々と逃げ出てくるではないか。

しかも、炎に巻かれた恨みを晴らさんとばかりに、こちらに向かってくる。

おいおい。想定外にも程があるんだが?

「畜生…!また作戦失敗か…!」

何体かは倒せたようだが、大半のゾンビは、火から逃れている。

こうなったら、もう背に腹は代えられない。

「ちっ…!良い作戦だと思ったんだけどな」

「言ってる場合かよ。とにかく逃げるぞ!」

反省会は後だ。

とにかく今は、迫りくるゾンビ集団から逃げなければならなかった。