神に選ばれなかった者達 前編

だが、響也くんを構っている暇はなかった。

じりじりと、こちらに迫るゾンビ。

床に撒き散らされた油や調味料には目もくれず。

ふぁに達の存在を見つけたゾンビが、腕をだらりと垂らして、こちらに一歩一歩と迫ってくる。

エグいエグい。

思わず弓矢を取って構えたくなるが。

「ふぁに、頼む」

「おぉ…そうだね」

おっと。今回のふぁには、放火犯なんだった。

じゃ、そろそろやるかね。

ふぁには素早く、ガスコンロのつまみを捻った。

カチッ、と火がついて。

サラダ油をたっぷり染み込ませたクッキングペーパーを近づけると、瞬間的にボッ、と音がして引火。

ちょっとびっくりしたが、手は離さなかった。

燃え上がったクッキングペーパーを、床に放り投げるなり。

「逃げろ!」

ここからは、全員動かなければならない。

床に火を投げると同時に、火事に巻き込まれないよう、ふぁに達は調理実習室の窓から飛び降りた。

空音兄は空音妹の手を取り、庇いながら、一緒に駆け出した。

李優くんと萌音ちゃんは非常に冷静で、素早い動きで撤退。

さて、ふぁにも逃げなくては…と思ったが。

そこで、恐怖のあまり固まったままの響也くんに気づいた。

「おい、マジかよ…」

怯えちゃったか。竦んじゃったのか?

悪夢慣れしてないなら、仕方ないとも言えるが。

何でこういうの、気づいちゃうかなぁ。

自己責任なんだから、ほっとけば良いのに。

でも、このまま放っといたら、ゾンビと共に炎に巻かれてしまうのは明白。

見捨てることは出来なかった。

「びびってんじゃねぇ。ほら、行くぞ!」

「…あ、あぁ…」

背中をバシンと叩くと、ようやく我に返ったらしい響也くん。

ふぁにと共に、窓から飛び出した。

一階とはいえ、慌てて窓から飛び降りたせいで。

間抜けにももんどり打って、地面に転がってしまった。

いってぇ。馬鹿。

なんか足首捻ったような気がするが、火に巻かれるよりはマシ。

無理矢理何とか立ち上がって、響也くんと共に仲間達のもとに駆け出した。

「こっちだ、ふぁに。響也!」

先導する李優くんの声のする方に、全速力で駆け抜けた。