神に選ばれなかった者達 前編

ふぁには、油を染み込ませたクッキングペーパーを一枚、手に取った。

ゾンビを誘き寄せる為に、囮になった李優くんと空音兄が、ここ、調理実習室にゾンビを誘導してくれている。

ゾンビ達が集まって来たら、ガスコンロに火をつけ、このクッキングペーパーに着火。

それを、油まみれ、酒まみれの床に投げ、引火させ、放火。

そのまま、集まったゾンビを一網打尽に焼き殺す。

これが、自分達の新しい作戦だった。

横を見ると、空音妹が心配そうな顔で佇んでいた。

その向こうにいる萌音ちゃんは、いつもとまったく変わらない、平然とした顔。

肝据わってんなぁ。あの子は。

この道のプロって感じがするよ。

その一方で、響也くんは、非常に不安げな面持ちで固く手を握っていた。

…緊張してんな。

「…大丈夫か、あんたさん」

響也くんの肩に、ポンと手を置くと。

「…っ。…大丈夫だ…」

あ、ごめん。なんかびっくりさせたっぽい?

「そんなに緊張するなって」

「…でも…これが失敗したら…」

「大丈夫だよ。失敗したら失敗したで、何とでも…」

その時は、また新しい作戦を考えれば良い…と。

ここは先輩風を吹かせて、響也くんの緊張を解く為に気の利いた台詞を。

考えようとした、その時。

「…!」

ガンガンガン!と、鉄パイプで壁を殴る音が近づいてきた。

「…お兄ちゃん…!」

空音兄が、鉄パイプで壁を殴って派手な音を立て、ゾンビを誘導しているのだ。

窓の外を見ると、李優くんが自慢の羽根で空を飛び、「鬼さんこちら」とばかりにゾンビを誘き寄せている。

鬼さんじゃなくて…ゾンビさんなんだけど…。

そして、ついに。

「のぞみ…!大丈夫か?」

「お兄ちゃん…!良かった、無事で…」

囮係の空音兄が、鉄パイプを担いで戻ってきた。

その後ろから、空音兄が誘き寄せたゾンビがわらわらと。

うわぁ。グロッ。

空音兄を追って、ゾンビが続々と、調理実習室にやって来た。

来た来た。Gホイホイならぬ、ゾンビホイホイ…だから、Zホイホイだな。なんか格好良い。

なんて言ってる場合じゃない。

「ひっ…」

「大丈夫だ、のぞみ」

そのグロテスクな光景に足を竦ませる空音妹を、空音兄が庇うように立った。

更に。

「李優、お帰り」

「連れてきたぞ」

もう一人の囮係、李優くんも戻ってきた。

その後ろから、李優くんが誘き寄せたゾンビが続々。

グロいを通り越して、最早エグい。

「っ…」

これには、響也くんもびびっていた。

足固まってんぞ。大丈夫か。