神に選ばれなかった者達 前編

ほたるはその日から、最早家族ではなかった。

厄介なお荷物扱いされて、「ほたる」という名前さえ呼んでもらえなくなった。

「お前」とか「おい」とか呼ばれて、笑顔を向けられることもなくなった。

まぁ、元々家族の中でもはみ出し者だったほたるは、滅多に笑顔を向けられることはなかったのだけども。

少なくとも今のように、憎しみのこもった表情で睨まれることはなかった。

両親共に、ほたるに向けられていたのは、怒りではなかった。

ほたるに向けられたのは、激しい憎悪だけだった。

本音を言えば、今すぐにでもほたるのことなんて捨てたかったのだろうけど。

実際ほたるを捨てる為に、両親が話し合っているのを聞いた。

しかも、パパもママも、ほたるが傍で聞いているのを分かっていながら、そんな話をしたのだ。

何処か遠方の施設に預けられないか、とか。少年院にでも送り付けてやろうか、とか。

ほたるが犬か猫だったら、間違いなく保健所行きだったろうな。

両親がツバを飛ばし合いながら、自分を捨てる計画を立てているのを聞いて。

一体、これから自分の身はどうなるのかと、ほたるはぶるぶると震え、怯えていた。

しかし結局、ほたるのような問題児を、安々と受け入れてくれる都合の良い施設なんて、見つからなかった。

大抵そういう施設は、親がいない子供を預かる為に存在しているのであって。

両親も、祖父母も健在のほたるの家では、結局「自分の家で何とかしてください」と言われ、受け入れてもらえなかったのだ。

パパもママも、酷く落胆していた。

こうしてほたるは、自分の生まれた家に留まることが決まったのだが。

ある意味で、この時遠くの施設にでも預けられていた方が、ほたるにとっては幸せだったのかもしれない。

これから先、ほたるの身に起きたことを思うと。

家で面倒を見るしかないと悟ったママとパパは、ほたるを徹底的に躾けることにした。

二度と悪さが出来ないように、厳しく束縛された。

あんなことがあったのだ。ほたるはもう、学校には行きたくなかった。

転校するか、あるいは少しの間だけでも、学校を休みたかった。

しかしパパもママも、ほたるが学校を休むことを決して許さなかった。

パパは何処からかバリカンを持ってきて、ほたるの襟首を引っ掴んで浴室に連れていき。

一本残らず髪の毛を剃り上げ、丸刈りにした。

ほたるが必死に抵抗したのと、それからあまりに乱暴な手付きで行ったものだから、頭皮が傷ついて、あちこち血が出たが。

しかし、そんなこともまったく無関心。

事件があった翌日も、顔中、頭中痣だらけ、傷だらけのほたるを、引き摺るようにして学校に連れて行った。

本当に引き摺られた。マジで。腕がもげるんじゃないかってくらい、乱暴に。

更に、校長や、担任の先生や、保健室の先生にまで、「この馬鹿息子を、厳しく指導してください」と頭を下げた。

どれほどほたるの具合が悪かろうと、泣こうと、喚こうと、ほたるには教室で授業を受けさせること。保健室には一歩たりとも入れないことを約束させた。

…いや、保健室くらいは許してやれよ。マジで風邪だったらどうするんだ。

とは思ったが、学校の先生方も、ほたるがしでかしたことを知っていた。

ほたるを学校の恥だと認識している先生方は、まったく異論なく、パパの頼みを聞き入れた。

こうしてほたるにとって、学校の先生達も、味方ではなくなってしまったのである。