神に選ばれなかった者達 前編

しかし、前回のように、都合良く留守番をさせてもらう機会はやって来ない。

前回が特例だっただけで、大家族のほたるの家は、基本的に家の中に誰かが居る状態がデフォなのだ。

しばし悶々と、ない頭を捻って考え続けた結果。

やっぱり、家に誰か居る状態でも、犯行に及ぶしかなかった。

諦めろよ、ってふぁには思うけどな。

諦めきれなかったんだよ。

人間、一度生活の質を上げてしまったら、なかなか戻れない生き物だからな。

折角手に入れた「人気者」のポジションを、失いたくなかった。

そこでほたるが狙ったのは、深夜だった。

家族が寝静まった深夜、ほたるはそっと布団から起き上がった。

そして、音を立てないよう、抜き足差し足忍び足で、子供部屋を出た。

深夜ならば、子供達は子供部屋で寝ているし、両親は一階にある両親の寝室で寝ている。

つまり、書斎は完全な無人になるのだ。

その隙を狙うしかなかった。

時計の時刻が日付を越える頃、ほたるはそっと、書斎に侵入した。

少しでも音を立てると、家族の誰かを起こしてしまう。

心臓はバクバクと音を立てていた。

弱気な心を起こしては、帰ろうか、やっぱりやめようかと思った。

やめときゃ良かったのになぁ。その時点で。

しかし、弱気な心を起こす度、頭の中で家族に笑われているような気がした。

「弱虫」って。「意気地なし」って。

ほたるは必死に反駁した。自分は弱虫なんかじゃない。意気地なしなんかじゃない。

やれば出来る、必要な時はちゃんと勇気を出せる人間なんだ、って。

…人の金をパクる勇気なんて、それは勇気とは言わないんだけどな。

あまりに心臓が激しく鳴っていたせいで、あまりに緊張していたせいで、よく覚えていないが。

気づいた時、ほたるは子供部屋の、布団の中に戻っていた。

その手に、何枚もの一万円札を握り締めて。