神に選ばれなかった者達 前編

最初の頃は、まだ、可愛いものだった。

駄菓子屋に行って、好きなお菓子を買った。

五万円もあれば、欲しいお菓子は全部買える。

お菓子を欲しいだけ買って、近くの公園で隠れるようにして、一人でこっそり食べた。

アイスクリーム、スナック、板チョコをまるまる一枚…。

それにチューインガムやキャンディー、キャラメルなんかも。

普段、お兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに、友達と一緒に駄菓子屋でお菓子を買う習慣のなかったほたるにとって。

それらのお菓子は、非常に新鮮に見えた。

家でおやつとして、お菓子を食べることはあった。

だけど家で食べる時は、必ず兄弟と分け合うのが前提だった。

アイスクリームは、大抵5つか6つ入ったファミリーパックのもの。

それも、好きな味は選べない。いつだって味は1種類だけ。

バニラ味とかチョコ味とか分かれていたら、兄弟間で「僕はあっちが良い!」「僕も欲しいのに!」みたいな喧嘩が起こるからだ。

その為ママが買ってきてくれるアイスクリームは、1種類の味しか入っていなかった。

バニラ味ならバニラ味のみ。チョコ味ならチョコ味のみ。みたいな。

お陰で喧嘩は抑えられているけど、自分の好きな味は食べられない。

それに、ファミリーパックのアイスってさ。

5本くらい入ってて、お得感あるけど。

その分、一本の容量は少ないじゃん?

一本なんて、あっという間にペロリだよ。

それでも兄弟は5人いるから、大抵の場合、一人一個ずつしかもらえない。

でも、五万円もの大金があれば、カップ一つのアイスクリームをまるごと、全部独り占め出来る。

精々100円のバニラアイスだけど、アイスクリームをカップ一つまるまる、一気食いなんて。

ほたるにとっては、記憶にある限り、初めての経験。

家にいる時はいつも、ママに「一度に食べちゃ駄目。3日に分けて食べなさい」って言われるしね。 

あるいは、「お兄ちゃん、お姉ちゃん、弟君にも分けてあげなさい」とかね。

一個のバニラアイスを3人、4人で分けたら。

一人分の分け前なんて、精々一口や二口程度。

そりゃ不満ですよ。

アイスクリームに限らず、板チョコでも、スナック菓子でも、何でもそう。

板チョコは列ごとに分け、スナック菓子もティッシュペーパーの上で分けて。

家で食べるお菓子は何でも、兄弟皆で分ける。これが鉄則。

それ故に、一袋まるまる、お菓子を全部一人で食べることは。

ほたるにとって、夢のような話だった訳だ。

で、その夢が、今ようやく叶った。

何せ五万円もあるのだから、欲しいお菓子は何だって買える。

その日ほたるは、わざとお昼の給食を残した。

出来るだけ、お腹を空かせておこうと思ったのだ。

そして、迎えた放課後。

早速駄菓子屋に行ったほたるは、欲しい物を全部買った。

あ、これ美味しそう、と思ったお菓子は、全部。

欲しいだけ、たくさんのお菓子をレジに持っていき。

リッチに一万円札で支払いをするほたるのことを、駄菓子屋のおばちゃんは、驚いたような顔で見ていたが。

お金を払ってくれるなら、別に文句はない。

何も言わずに会計をして、ほたるはしめしめ、と店を出た。