神に選ばれなかった者達 前編

何が言いたいのかは、もう分かるな?

その考えが浮かぶと同時に、ほたるは胸がドキドキしてくるのを感じた。

別にときめいてる訳じゃないぞ。緊張してきたんだ。

だけど、躊躇っている暇はなかった。

いつ、ママと妹ちゃんが戻ってくるか分からない。

この機会を逃せば、次はいつ留守番出来るか分からない。

…魔が差した、というのはこういう時のことを言うんだろうな。
 
ほたるは思った。

自分はこれまで、ずっと家族の中でみそっかすに扱われてきたんだから。 

ちょっとくらい、得をしたって良いじゃないか、と。

それに、こんなにあるんだから、少々なくなったってバレるはずがない。

自分にそう言い訳をして、自分を正当化して。

ほたるは、素早く札束の中から、5枚ほど引き抜き。

何事もなかったように、元の場所に札束を戻した。

そして、引き抜いた5枚の一万円札を、そっとポケットに忍ばせた。

完全犯罪、成立。

…いや、完全犯罪ではないけども。

ほたるにとっては完全犯罪だった。

この時の、この経験が、全ての過ちの始まりだった。

ほたるは、そのままいそいそと子供部屋に戻った。

この一万円札5枚を、何処に隠すかが問題だった。

部屋の中をきょろきょろ見渡して、何処に隠すべきかを考えた。

…タンスの中?机の引き出しの中?

まさか、財布の中にそのまま入れる訳にはいかない。絶対にバレる。

あれこれと考えたけれど、なかなか良い隠し場所は見つからない。

タンスの中や机の引き出しの中だと、ママや兄弟達に見つかってしまう恐れがあった。

じゃあ、絵本の間に挟もうか?それとも、玩具箱の中に忍ばせる?

それも、あまり良い隠し場所とは言えなそうだ。

だって、学校に行ってる間に部屋の中をママに掃除されてしまったら。

その時、運悪く見つけられてしまう可能性があった。

お馬鹿なほたるでも、それくらいのことは想像がついた。

ならば、どうするか。

持ち歩けば良いのだ。常に、自分の傍に。

ほたるは、自分のランドセルの前ポケットに、一万円札を隠した。

普段はまったく使わないこの前ポケットが、こんな時に役に立つとは。

ここなら、部屋の中を掃除された時に見つかる、という危険はない。

完璧な隠し場所。

たった5枚の紙切れだが。

ほたるにとっては、まるで核爆弾でも手に入れたかのような高揚感があった。