神に選ばれなかった者達 前編

「…!」

これには、ほたるもびっくりした。

これまでずっと、(ほたるにとっては)つまらないものしか入っていなくて。

早くも、好奇心を失いかけていたところに。

いきなり飛び込んできたのが、この現金だった。

輪ゴムで縛っただけの万札の束が、そのまま無造作に三つほど、重ねておいてあった。

ほたるの家では、子供達は、特に決まったお小遣をもらうことはなかった。

代わりに、お友達と駄菓子屋に行く時や、家族でショッピングモールに出掛けた時のみ、百円玉を2、3枚もらっていた。

月額制じゃなくて、必要に応じてその時々にあげる、という制度。

しかしこの制度だと、ほたるは不利だった。

というのも、幼い頃から人見知りで、お兄ちゃんやお姉ちゃんのように社交的でもなかったほたるは。

小学校に入っても、ふぁに以外の友達はいなかった。

そのふぁにとも、一緒に駄菓子屋に行くような付き合いはなく。

小銭をもらうことも、滅多になかった。

小学生だもんな。それも三年生。

500円玉に無限の可能性を抱く年頃。

ましてや、万札の束なんて映画やドラマでしか見たことがなかった。

まさか偽物ではなかろうと、まじまじと札束を見つめる。

一つの束に、大体20枚の一万円札が束ねられていた。

つまり、この引き出しの中にあるのは、総額60万円ということになる。

小学校三年生にとって60万円とは、黄金の宝箱を開けたようなものである。

で、何でこんなお金が、パパの押し入れの引き出しにしまい込まれていたのかという理由だが。

これは、別に疚しい理由ではない。

災害時、銀行でお金を引き落とせない時や。

突然の事故、病気で、今すぐにまとまったお金が必要な時の為に。

ある程度、家の中に現金を保管しておきたかったからである。

このお金の存在は、パパも、ママも知っていた。

いざという時は、ここに入れているお金を使おう、と。

知らないのは、子供達だけだった。

まぁ、昨今は電子マネーが流行っているとはいえ。

やっぱり、何だかんだ、現金万能説ってあるからな。

それならそれで、もうちょっと、丁寧に保管しとけよ、ってふぁには思うけど。

輪ゴムで縛っただけって。

書斎は子供達の立ち入りを禁止しているし、まさか、子供が押し入れを漁るなんて考えもしなかったのだろう。

その考えの甘さが、ほたるをここまで導いてしまったのである。

見たこともない枚数の現金を、偶然見つけてしまったほたる。

埋蔵金を発掘したようなものである。

しばし、その現金をじーっと見つめていると。

…突然、ほたるの中にとある考えが浮かんだ。

それはまるで、ほたるの心の中の悪魔が、ほたるに囁きかけたようだった。