神に選ばれなかった者達 前編

当時、自分がそれに対してどのような反応をしたのか、今となっては定かではないが。

多分、ぼんやりとして、あんまり真面目に聞いていなかったような気がする。

何言ってるんだろう、と彼女の言いたいことの意図を計りかねていた。

返事に困った俺は、こう尋ね返した。

「…何で?」

「え、何でって…。それは…好きだからだよ」

と、雨野リリカは答えた。

はぁ。

好き…。…好きって、どういう感情なんだ?

そもそも、俺達は先月高校に入学して、同じクラスになってまだ一月しか経っていないのに。

こんな短い時間で、何故俺のことが好きだと断定出来るのか。

…もう少し、よく考えた方が良いのでは?

結論を出すのが早過ぎるのではないか。

「好き…って、何処が好きなんだ…?」

純粋に疑問だった。

自慢ではないが、自分に好きになる要素があるとは思えなかった。

「それは…顔、とか…」

「…顔…」

「クラスで一番イケメンだし…。それに、頭も良いし」

「…頭…」

…つまり、首から上ってことか?

「入学試験、一位で突破したんでしょ?」

「…あぁ…。それは、まぁ…」

「そんな頭の良い人が彼氏になってくれたら、なんかかっこ良いじゃない?だから、私と付き合って」

…なんか格好良いから。

それが、交際を申し込んだ動機なのか。

いまいちピンと来ないと言うか…。

…首から上が好きだと言われても、俺としては全然嬉しくない。

「ね、良いでしょ?」

そして、何故そんなに自信満々なのか。

まるで、自分が交際を申し込んだら、承諾するのが当然と言わんばかり。

それは思い上がりではないのか。

「悪いが、断る」

「えっ」

案の定、断られることなんてまったく予想していなかったらしく。

俺が拒絶すると、雨野リリカはきょとんとしていた。

俺は雨野リリカのことなんて、当時はまったく知らなかった。

何なら、あの時はまだ、雨野リリカというフルネームさえ覚えていなかった。

ただのクラスメイトA、という扱いだった。

そんな人に、首から上が好きだから付き合ってくれと頼まれても、引き受けることは出来なかった。

それに、例え雨野リリカのことをよく知っていたとしても、このような話は断っただろう。

「他を当たってくれ」

頭が良くて顔が良い男が好きなら、俺である必要はない。

他にいくらでも、変わりはいるはずだ。

俺には分からない。

誰かを好きになるとか、誰かに好かれるとか、そういうことは分からない。

多分一生分からないと思う。

「話はそれだけか?なら、もう失礼する」

「え、ちょ、まっ…」

雨野リリカの制止を振り切って、俺はくるりと踵を返して立ち去った。





…雨野リリカからの嫌がらせが始まったのは、この時からである。