神に選ばれなかった者達 前編

どうやってのぞみを慰めてあげたら良いだろう。

僕には分からない苦しみを味わっているのぞみを。

「お兄ちゃん…。…私、怖いの。凄く痛いの…」

「…うん」

そう言って震えるのぞみの手を、ぎゅっと握ってあげることしか出来ない。

「こんなこと、信じてもらえないかもしれないけど…」

「ううん、信じるよ…。…のぞみの言うことなら、僕は何でも信じる」

「嘘…!たかが夢だって思ってるでしょ?現実じゃないんだから、大丈夫だって…」

「思ってないよ」

僕の言葉に偽りはない。

のぞみが言うことなら、僕はそれを信じる。
 
しかしのぞみは、僕の言葉さえ信じられないほどに、疑心暗鬼に陥っていた。

「嘘、嘘だよ…。お兄ちゃんに分かるはずない。あんな苦しみ、あんな痛み…!」

「…」

確かに僕には分からない。

僕は、のぞみの経験した悪夢を知らないから。その痛みがどんなものなのか分からない。

でも、その悪夢のせいで、どれだけのぞみが傷つき、苦しんでいるのかは分かる。

見れば分かるよ。

いつだって僕は、ずっとのぞみの傍に居たんだから。

なんて言ってあげたら良いだろう。

なんて言えば、のぞみの心は慰められるんだろう。

「…大丈夫だよ、のぞみ…」

僕に出来たのは、馬鹿の一つ覚えみたいに、同じ言葉を繰り返すことだけだった。

「何が大丈夫なの…。何も大丈夫じゃない。お兄ちゃんには分からないよ…!」

「大丈夫」

それでも僕は、そう言った。

だって。

逃げられない苦しみなら、耐えられない痛みなら。

もし、僕が代わってやることが出来ないなら。

…僕も、のぞみと同じ苦しみを、同じ痛みを共有する。

決して、のぞみを一人にはさせない。

運命の女神とやらが、のぞみを苦しめようとするのを、僕は絶対に許さない。

「お兄ちゃんは、のぞみを信じる。お兄ちゃんものぞみと同じ場所に行くよ」

「…出来るの?お兄ちゃん…」

「勿論。お兄ちゃんはのぞみを信じる。だから、のぞみもお兄ちゃんを信じて」

口では自信満々に、そう言っていたものの。

この時、僕は何か根拠があって言った訳じゃなかった。

何も分かっていなかった。お互いに。

ただ、僕がのぞみを信じていることは事実だった。

そして、のぞみを一人にするはずがない、それだけは事実だった。

何が何でも、僕はのぞみと同じところに行く。

「安心して、のぞみ。お兄ちゃんがいつでも、傍に居るからね」

昔も今も、いつまでも変わらずに。