神に選ばれなかった者達 前編

…しかし。

翌朝起きた時、のぞみは大粒の涙を溢していた。





「…!?のぞみ、どうしたの…?」

「もうやだ…。もうやだよぉ…!」

のぞみは泣きじゃくり、布団の上で震えていた。

飛び起きた僕は、慌ててのぞみを抱き締めよう…と、したのだが。

「…!いや、来ないで!」

「えっ」

怯えた表情ののぞみは、バケモノでも見るかのような目で僕を見た。

そして、ずりずりとその場から後ずさる。

まるで、僕から逃げようとするように。

「来ないで…もうやめて…もう痛いのは嫌…!」

すぐに気づいた。

のぞみは、僕を見ていない。

目が覚めたのに。ここは現実なのに、のぞみはまだ夢を見ているのだ。

思えば、この時。

既に、のぞみには「侵食」が始まってしまっていたのだろう。

夢の中で何度も無抵抗に死んでしまったせいで、現実の日常生活まで侵されている状態だった。

しかし僕はその時、そんなことはまったく分かっていなかった。

「のぞみ…お兄ちゃんだよ。バケモノなんかじゃない」

僕は必死に、のぞみにそう呼び掛けた。

しかし、怯えるのぞみの耳には、まったく届いていなかった。

「やめて…。もう嫌。痛いのは嫌。死ぬのは嫌…!」

「のぞみ…!大丈夫だ。ここは現実なんだよ。もう夢じゃな、」

「来ないで、来ないで!いやぁ!」

完全に錯乱状態だった。

こんな状態になったのぞみを見たことがなくて、僕もパニックだった。

頼るべき大人もいない僕達は、いつだってどんな時だって、自分達の問題を自分達で解決してきた。

こんな時、誰に相談したら良いのかも分からない。

だから、今回も自分達で、何とかしなければならなかった。

僕は、怯えるのぞみにそっと近づいた。

のぞみの怯えが酷くなったが、僕はそんなのぞみをぎゅっと抱き締めた。

「…大丈夫」

絶対に大丈夫。大丈夫だから。

「お兄ちゃんが守ってあげる。のぞみが怖いものは全部、お兄ちゃんがやっつけてあげるから」

「…」

「だから大丈夫。怖がらないで、大丈夫だからね…」

ぽんぽんと、小さな赤ん坊をあやすように。

背中を優しく叩き、撫でながら。のぞみが安心出来るように。

いつまでもいつまでも、のぞみが落ち着くまで、優しい言葉をかけ続けた。

…徐々に、のぞみの震えが止まっていった。

「…お、お兄、ちゃん…?」

「…そうだよ」

ようやく泣き止んだのぞみは、驚いた表情で僕を見つめていた。

…良かった。

やっと、正気に戻ってくれたようだ。