神に選ばれなかった者達 前編

雨野リリカや、その取り巻き達。

そしてクラスメイト達からの嫌がらせの数々は、実は今に始まったことではない。

机と椅子をゴミステーションに捨てられるという行為も、さして目新しくない。

先週は、俺の学生鞄に油性ペンで落書きされていたし。

その前の日は、何故か学校に登校したら、机の上に枯れた花と、花瓶が置いてあった。

その前は、雑巾を洗ったバケツの水を、頭からぶっかけられた。

あれらに比べれば、机と椅子を捨てられるくらい、可愛いものである。

俺もそこまで鈍くはないから、恐らくこれは「いじめ」と呼ばれる行為なのだと理解している。

つまり、俺は雨野リリカや、その取り巻きのクラスメイト達にいじめられているのだ。

…で、だから、それがどうしたって話だが。

持ち物を汚されたり壊されたりするのは困るが、それ以外は別に、俺が耐えれば良いだけの話なので、特に何とも思わない。

鬱陶しいな、と思う時はあるが。

嫌で堪らないとか、辛くて仕方ないとか、そういうことはない。

もっと辛いことが、この世にはたくさんあるからだ。

別に殺される訳じゃあるまいに、好きにしてくれれば良い。

クラスメイトに笑われるのも、当たり前のように見て見ぬ振りを決め込む教師達も。

いちいち気にしなければ、どうでも良いこととして受け流せる。

多分雨野リリカには、俺をいじめずにはいられない理由があるのだろう。

それが何なのかは分からない。

ただ、俺が彼女に嫌がらせを受けるようになったきっかけは、今でも覚えている。

何も俺だって、入学式の次の日からいじめられ始めた訳じゃないからな。

全てのきっかけは、入学してから一月ほど経った頃。

もう何ヶ月も前の話だな。

突然、雨野リリカが俺に、男女交際の申し込みをしてきたのだ。







「ねぇ、萩原君。私と付き合ってくれない?」

放課後、校舎の裏に呼び出されたかと思ったら。

今だったら考えられないような、恥ずかしそうな、照れ臭そうな表情で。

雨野リリカは、俺にそう頼んできた。