神に選ばれなかった者達 前編

その日の夜、僕は宣言通り。

のぞみと布団を並べて敷いた。

「これでよし、っと…」

並んで寝るの、何だか久し振りだね。

「さぁ、のぞみ。ここに寝て…」

「…うん…」

今夜もまた、酷い悪夢を見てしまうんじゃないかと。

のぞみは、不安げな面持ちだった。

可哀想に。すっかり怯えてしまって。

余程怖い夢だったんだろうね。

人面犬に襲われるんだから、そりゃ怖いに決まってる。

そんなのぞみを、僕は殊更に明るく励ました。

「大丈夫だよ。ほら、お兄ちゃんが隣で寝てあげるから」

もし人面犬に襲われるとしたら、お兄ちゃんも一緒だよ。

「うん…」

のぞみは小さく頷いて、布団に横になった。

僕も並んで横に寝て、ふっ、とろうそくを吹き消した。

乏しい灯りが消え、室内は真っ暗になった。

窓もない長屋の一室は、完全に暗闇だ。

せめて、人並みに部屋に電気が通ってたらな…。

のぞみが怖くないように、明かりをつけたまま眠ったのに…。

ろうそくをつけっぱなしで寝てしまうと、火事が怖いし…。

のぞみは大丈夫だろうか。今夜も怖い夢を見ていないだろうか…。

いつもなら、仕事の疲れから、横になるとすぐに眠ってしまう。

寝るのは昔から好きだ。寝ている間は、空腹に苦しめられることはないから。

しかしその夜は、のぞみが心配で、僕はなかなか眠れなかった。

すると、暗闇の中で。

「…お兄ちゃん…。…起きてる?」

小さな声で、のぞみが僕を呼んだ。

「起きてるよ…。どうしたの?」

のぞみも、まだ眠ってなかったのか。

「お兄ちゃん…。手、繋いで寝ても良い?」

「良いよ」

今日ののぞみは甘えん坊だね。

僕が頷くと、のぞみは暗闇の中で、僕の布団に手を入れてきた。

その小さな手を、僕はぎゅっと握り締めた。

小さい時から、ずっと僕が引いて、一緒に歩いた手。

何よりも愛しく、大切な手だ。

「お兄ちゃんが傍にいてあげるから、安心しておやすみ」

「…うん…。…ありがとう」

暗い中でも分かる。

のぞみは安心したような声でそう言って、ほどなく寝息を立て始めた。

念の為に、眠っているのぞみの顔を覗き込んだけれど。

悪夢に苦しんでいるようには見えなかった。

…良かった。今夜は大丈夫なんだ。

僕は朝まで、のぞみの手をしっかり握ったまま、自分も眠りについた。