神に選ばれなかった者達 前編

僕は気づいていなかったが、その時もう既に。

のぞみは、『処刑場』に送られていたのだ。

とはいえ、僕達兄妹が『処刑場』という掲示板のことを知ったのは、割と最近になってからだ。

捨てられていた中古のパソコンを拾ってきて、使えるように繋げてみたら。

突然、そこに『処刑場』が現れたのだ。

その掲示板で、僕達は、自分達の他にもこの世に生贄がいることを知った。

でも、それを知るまでは。

ましてや、先に夢の世界に送られたのぞみは、一人で不安で、心細かったことだろう。

すぐに気づいてやれなくて、本当に申し訳なかった。

夕方になって家に帰ってきたのぞみは、いつもと変わらない様子に見えた。

元気そうで、体調も良くなっているようだった。

一緒に粗末な夕食を食べながら、今日学校で学んだことを話して聞かせてくれた。

学校に行ったことのない僕には、正直、のぞみが教えてくれても、ほとんどちんぷんかんぷんだったのだが。

嬉しそうに授業の内容を教えてくれる、そののぞみの顔を眺めているだけで、僕にとっては無情の喜びだった。

のぞみを学校に行かせてあげられるようになって、本当に良かった。

一緒にお喋りをして、日が暮れてきた頃、僕達はろうそくの節約の為に、すぐに床についた。

スラム街での路上生活が長かった僕らは、日が昇れば起きて、日が暮れれば寝る、という習慣が身にしみ付いていた。

この日もいつも通り、のぞみは押し入れの中に。

僕はその押し入れを隔てて布団を敷き、そこに横になった。

ほどなくして、僕は眠りについた。

今日もあちこち駆けずり回って、とても疲れていたのだ。

僕が呑気に眠っている間、のぞみが夢の中で、得体の知れないバケモノと戦っているだなんて。

そんなこと、僕は知る由もなかった。

それを知ったのは、翌朝になってからだった。

その日、押し入れから出てきたのぞみの顔を見て、僕は度肝を抜かれた。

なんとのぞみは、ぽろぽろと涙を流していたのだ。
 
あまりに動転して、その時手に持っていた、袋から出したばかりのもやしを、その場にひっくり返してしまったくらいだ。

…あ、勿体ないから、もやしはその後よく洗って食べた。

…って、それよりも。

「どうしたののぞみ。大丈夫!?」

「ふ…ふぇ…」

僕は急いで、慌てて、のぞみに駆け寄った。

のぞみは大きな瞳に涙の粒を浮かべて、僕にしがみついてきた。

そんなのぞみの姿を見て、これはただ事ではない、と思った。