神に選ばれなかった者達 前編

翌日。

いつもは、昔からの習慣で、誰に起こされなくても日の出と共に自分で目を覚ますのぞみだったが。

その日は、何故かなかなか起きてこなかった。

「…」

…今日ののぞみは、お寝坊さんかな?

それはそれで可愛いけれど…でも、朝ご飯を食べる暇もなく学校に行く羽目になったら、可哀想だ。

食べられるものがある時に食べておくべきだ。お兄ちゃんはそう思うよ。

「のぞみー。朝だよー」

僕は、押し入れの引き戸をこんこんとノックした。

当時僕達が住んでいたのは、台所の一つもない、どころか電気も水道も通っていない、一部屋のみの長屋だった。

水は外にある井戸のポンプから汲み上げ、電気は代わりにろうそくを使っていた。

今住んでるアパートも、帝都の民にとっては充分ボロアパートだと思うが。

あの頃住んでいた長屋は、一般人にとっては、犬小屋みたいなものだね。

何なら、犬の方がもっと良い部屋に住んでいる可能性もある。

それでも、その前までは屋根のある場所ではなく、路地裏の隅っこや、道路端に座り込んで、路上生活をしていたから。

そんなオンボロ長屋でも、雨風を凌げるだけで豪邸のように思えていた。

しかし一部屋しかないことで、プライバシーを守れないので。

女性には個室で寝てもらおうと、部屋の押し入れを寝室代わりに、のぞみにはそこで寝てもらっていた。

これで、最低限のプライバシーは保護している。

わざわざノックしなくても、この部屋の防音性能なら、部屋の中で声をかけるだけでのぞみには聞こえるはずなのだが。

一応礼儀として、ノックはさせてもらった。

…しかし。

「…」

…一向に起きてこないのぞみ。

…大丈夫だろうか?

「のぞみ?大丈夫?何処か痛い?具合悪いの?」

長年の貧乏路上生活のお陰で、身体の免疫はお互い、非常に鍛えられている。

多少賞味期限が切れた食べ物を食べても、全然平気だし。

何なら消費期限が切れていても、数日程度なら平気。

腐った生ゴミを食べても、濁った水を飲んでも、元気でピンピンしている。

色々な病気が蔓延しているスラム街だが、それだけに免疫もまた高いのである。

それでも、風邪を引かない訳ではない。

最近はのぞみも学校に行き始めて、新しい環境に適応するのに苦労していることだろう。

その気苦労のせいで、具合が悪くなったのかもしれない。

「のぞみ、大丈夫?開け…」

るよ、と押し入れを開けようとしたら。

僕が開けなくても、のぞみが開けてくれた。

「あ…のぞみ…」

「…」

出てきたのぞみは、非常に暗い顔をしていた。

…えっ。

「ど、どうしたののぞみ?何があったの?」

昨日寝る前までは、至って普通の様子だった。変わった様子はなかったはずだ。

それなのに、何故一夜にして一変しているのか。

これはもしかしてのぞみがピンチなんじゃないかと、お兄ちゃんののぞみレーダーが察知した。