神に選ばれなかった者達 前編

『処刑場』にいる僕以外の全員は、恐らく、自分の意志に関係なく生贄に選ばれたのだろう。

しかし、僕は違う。

僕は自ら、生贄にして欲しいと頼んだ。

誰に?

…分からない。

僕はただ、必死に祈っただけだ。信じてもいない神様に。

どうかお願いだから、僕を生贄にしてくださいと。

神頼みなんて僕のガラじゃないけど、他にどうすることも出来なかった。

死ぬことはどうでも良かった。

バケモノと毎晩戦わされることも、どうでも良かった。

死の痛みも、日常の侵食も、僕にとっては取るに足りない。

僕が望んだのは、妹と同じ運命を背負うこと。それだけだ。

是が非でも、妹と同じ場所に行きたかった。

だから神に祈った。もしのぞみが夢の中で苦しんでいるなら、僕にもその苦しみを背負わせて欲しい。

僕も生贄にして欲しいと。

これまで神は、僕の為に、僕とのぞみの為に、何もしてくれなかった。

いつだって僕達は、二人で困難を乗り越えてきた。

何もしてくれない神様なんて、いないも同然だったから。

だがこの時神は初めて、僕の願いを聞いてくれた。

僕もまた生贄となり、夢の中で戦うことになった。

それを後悔したことは一度もない。

のぞみを守ることは、僕の存在理由そのものだからだ。

のぞみだけは、僕が守る。

その為には誰を傷つけても構わない。誰を騙しても構わない。…誰でもだ。

のぞみが、僕を暗闇から救ってくれた。

あの子はまさに、僕の人生の希望そのものなのだ。







…先に生贄に選ばれたのは、のぞみだった。

これが逆だったらと、どんなに悔いたか分からない。

のぞみじゃなく、僕だったら良かったのに。

そうすれば、のぞみをあんなに苦しめることはなかったのに。

今からもう何年も前の、ある日の朝。

同級生に遅れて小学校に通い始めたばかりののぞみが、突然奇妙なことを言い出した。

「お兄ちゃん、私、昨日変な夢見たよ」

「…変な夢?」

寝てる時に見る夢だよね?

お兄ちゃんは昨日、何人もののぞみが僕の周りに群がって甘えてくる夢を見たよ。

あまりに最高過ぎて、一生目覚めたくなかった。

「あのね、背の高い男の人が、私に向かって謝ってきて…」

「…男の人?誰?」

「分かんない。でも、その人が私に、生贄だって言ったの」

「…生贄…」

何やら不穏な言葉が出てきた。

…どういうことだろうね。

「怖かったの?」

「ううん、怖くなかったよ。ただの夢だもん」

「そっか」

良い子だね、のぞみは。

僕は、よしよし、とのぞみの頭を撫でた。

「さぁ、学校に遅れるよ。急いで支度しないと」

「うん」

あの時、のぞみはまだ笑顔だった。

その笑顔が凍りついたのは、翌日からだった。