神に選ばれなかった者達 前編

…ところで。

「その数珠って…本物なの?」

「まさか。あれはただの玩具だよ。スーパーのお菓子コーナーで売ってたやつ」

お菓子のラムネが一個ついてる、精々2、300円の玩具のブレスレットだね。

「じゃあ、さっきのペンダントも?」

「勿論。スーパーで買った玩具」

…だよね。

お菓子のおまけのネックレスが、10万円以上で売れるなんて。

今日は大儲けだね。

勿論、これはれっきとした詐欺である。そんなことは分かっている。

もう既にご存知だと思うけど、お兄ちゃんの仕事は占い師である。

…それも、霊感商法で高額な商品を売りつける、悪徳占い師。

これがお兄ちゃんの本業であり、我が家の主な収入源である。

無論、こうやって稼いだお金は、綺麗なお金ではない。

クラスメイト達は、私達兄妹がこんな商売をしていることを知ったら、顔をしかめるだろう。

そんなことはしちゃいけない。人を騙すことに罪悪感はないのか。って。

悪いけど、はっきり言って、私には罪悪感なんてない。

私だけじゃなく、スラムで生まれた人間は誰だってそうだ。

誰もが生きるか死ぬかの生活をしている。

生きるか死ぬか、とはつまり、食うか食われるかということだ。

誰かに騙されても、騙した者ではなく、騙された者が悪い。

騙されるような間抜けの方が悪いのだ。

いかにして狡猾に相手を騙すか。それが何より重要。

スラム街では、馬鹿正直な人間から順番に死んでいく。

律儀に、真面目にモラルを守っている者から。

生き残りたかったら、相手を騙してでも、嘘をついてでも、他人を踏みつけにしてでも生き残る。

そういう覚悟がなければ、生き残れない。

これこそスラム街の常識であり、スラムなら3歳の孤児でも知っている。

だから私達兄妹も、これまで散々、酷いことをしてきた。

私達が生き残る為に、大勢の人を不幸にしてしまったであろうことも分かっている。

同時に私達もまた、多くのスラム街の仲間達に踏みつけにされてきた。

でも、そのことを後悔はしていない。

だってそうしなきゃ生き残れなかったし、過酷な生存競争を生き抜く為には、他人のことなんて気にしていられない。

汚い金だろうが綺麗な金だろうが、金は金。

それで食べ物が買えるなら、どんなお金でも関係ない。

他人から盗んだお金でも。自販機の下に這いつくばって拾ったお金でも。汗水垂らして働いて得たお金でも。

不幸に怯える人を騙し、玩具のガラス玉を高額で売り受けて得たお金でも、だ。

私が今毎日食べていけるのも、学校に行くことが出来るのも、お兄ちゃんがこうやって稼いでくれるから。

だから私は、お兄ちゃんに感謝こそすれ、批難したことは一度もない。

むしろ、そうやって稼いでくれるお兄ちゃんのことを誇らしく思っている。