神に選ばれなかった者達 前編

「朝起きた時、そして日が落ちてベッドに入る前に、この石の前に跪いて、熱心に祈りなさい。そうすれば、救いの道は開かれるでしょう」

「本当ですか…!」

「勿論です。しかし、これは特別で、そして貴重なもの。タダで差し上げる訳にはいきません」

…来た。

「神に救われる為なら、絶望の未来を回避する為なら、いくらでも支払います…!」

「そうですか。では、あなたの為に祈りましょう…。本当なら30万円の品ですが、あなたは敬虔なる神の信徒。特別に、20万円で結構です」

「ありがとうございます。払います!」

こうしてお客さんの手から、大量の一万円札がお兄ちゃんに手渡された。

代わりにお兄ちゃんは、恭しく、白い石のペンダントを差し出した。

「きっと、これで救われるでしょう。もし何がありましたら、またご相談ください」

「ありがとうございます、先生…!先生は、私の希望です」

「とんでもない。私は神の御心を代弁しているに過ぎません。全ては、神の御心のままに…」

お兄ちゃんは微笑み、合掌してそう言った。

毎日、お兄ちゃんと一緒に暮らしているからこそ分かる。

あのお兄ちゃんの笑顔が、業務用の作り笑いであることに。

そんなことも知らず、お兄ちゃんに大金を払ってペンダントを手に入れたお客さんは。

にこにこと、ご満悦の様子で帰っていった。

…どうも。毎度あり。

またのご来店(?)お待ちしております。

すると。

「…さてと、のぞみ。そこに隠れてないで出ておいで」

えっ。

お兄ちゃんは、私が隠れている方をくるりと振り向いた。

今度は作り笑いではなく、本物の笑顔だった。

私は、そうっと物陰から姿を現した。

「…ごめん、お兄ちゃん…。途中から立ち聞きしてた…」

正直に白状。

「うん、知ってた。のぞみの気配、視線…そして匂いがしたから」

ごめん。気持ち悪い。

え?私、そんなに体臭キツい?

「のぞみの匂いなら、お兄ちゃんは3キロ先でも分かるよ」

だから気持ち悪いってば。ドヤ顔やめて。

「それで、どうしたの?のぞみ。学校帰り?」

「あ、ううん。一回家に帰ったんだけど、お兄ちゃんがいなかったから…迎えに来た」

と言うと、お兄ちゃんの目がキラキラ輝いた。

「のぞみが…お兄ちゃんを迎えに…」

あ、言わなきゃ良かった…。

「のぞみ…。お兄ちゃんは嬉しいよ…」

「そ、そう…」

「今日一番嬉しい…。今日はさっきのペンダントと、それに午前中に10万円の数珠も売れたけど、それ以上に今が一番嬉しい…」

「…それは良かったね」

今日は随分と商売繁盛だったらしくて、何よりだよ。