神に選ばれなかった者達 前編

結局俺は、その日の午前中、本当に床で授業を受けた。

一時間目の教師も、二時間目、三時間目の授業の教師も、俺が床に座っているのを見ても、特に無反応だった。

面倒臭そうなことには、関わり合いたくないのだろう。

その気持ちはよく分かる。

俺としても、最初の一時間と二時間目は、床の上で授業を受けることに若干違和感があったが。

三時間目くらいになると段々慣れてきて、床にあぐらをかいて授業を受けるのも、案外悪くないと思い始めた。

石の上にも三年。床の上にも三時間。

人間、大抵のことには慣れてしまえる生き物だということだ。

ただ、床だとちょっとノートを書きにくいのが問題だな。

あと、床の埃が気になる。

それらの些細な問題点を気にしなければ、意外と快適。

四時間目の授業は体育で、体育館で授業を受けるので。

床で授業を受ける必要はない…の、だが。

問題は、体育の時に着る体操着を、俺が机の横のフックにかけていたことである。

机と同時に、横にかけていた体操着も消失してしまったので、俺は体育の授業が受けられない。

これは大問題である。

せめて体操着だけは返して欲しいのだが…。ついでに、机の中に入れてた教科書も…。

しかし、無い物ねだりをしていても仕方がない。

体操着を着ないと体育の授業は受けられないし、そうなると俺は、体育館で見学しているしかない。

その時間が惜しいので、俺はこの四時間目の体育の授業の時間を、有効活用させてもらうことにする。

クラスメイト達が、俺を置き去りにして体育館に向かった後で。

俺は、改めて自分の机と椅子を探すことにした。

床で授業も案外悪くないが、それでも毎日は遠慮したいからな。

今のうちに見つけておきたい。

校舎内には見つからなかったから、今度は外だ。

あてはある。

多分あそこだろうな、という場所が。

運動場に出て、俺は真っ先に、校舎裏にあるゴミステーションに向かった。

校舎内にないなら、多分ここだろうと思っていた。

案の定、そこに薄汚れた机と椅子が、無造作に放り出されていた。

まるでゴミのように。

…いや、もうほぼゴミなんだが。

机の横にかけていた体操着は、ご丁寧にポリバケツの中に捨てられていた。

ついでに、教科書とノートも、わざわざ机の中から引っ張り出されて捨てられている。

こんな時だけ仕事が丁寧だな、と妙に感心してしまった。

酷い有り様だが…。…ともあれ、見つかって良かった。

俺は、ゴミにまみれたポリバケツの中に素手で手を突っ込み。

汚れた教科書や、汚れた体操着を引っ張り出した。

誰かが飲みかけのジュースを捨てたらしく、教科書と体操着に、こぼれたジュースのシミがついていた。

教科書はともかく、体操着の方は、洗えば汚れが落ちるかもしれない。

だが、汚れが落ちなかったとしても…それはそれで別に構わない。

その時は、ジュースのシミがついた体操着を着て、体育の授業を受ければ良いだけの話だ。

多分クラスメイトには笑われるだろうけど、それはいつものことだし。

無事に見つかったんだから、それで良い。

俺はゴミステーションから自分の机を椅子を持って、教室に戻った。