恋をしたのは姉の夫だった人

 優は冷静を装って、小さく頷き周囲を見渡した。

「待つのは平気ですか?」

「うん、待つのは平気」

「同じくです」

 若田の言葉に瑞樹を重ねる。
彼も気が長い方。
心の我儘に感情をむき出しにすることなく、真剣に向き合い無理に抑えつけようとはしない。
彼女の個性を尊重した子育てを行っていると感じる。
そんな彼が優は好きだ。

 ふとした時に瑞樹のことを思い出してしまう優である。
 
 しばらくすると、続々と観客たちが入ってきた。
通路側の二人はどうしても邪魔になってしまう。

 一度外に出ようという意見が一致し、結局、公演の始まる直前まで会場の外に出て、お喋りをして待った。
若田とは話しやすいため、あっという間に公演の時間はやってきて、席に戻ったのだった。



 公演後、二人は再び他の観客たちに邪魔にならぬようにと、足早に会場を出た。

「久々に見ましたけど面白かったですね」

「うん、そうだね」

 ミュージカルはとても面白い内容だった。
しかし、優は自分の重症さに呆れていた。
なぜなら、ヒーロー役の長身の俳優が瑞樹に似て見え、ヒーローばかり目で追ってしまっていたから。

「春日さん真剣に見てましたよね」

「うん、すごく面白くて……」

 熱い視線を送っていたのがバレていることに、恥ずかしさを覚える。

「春日さん、せっかくなのでよかったらどこかでお昼を食べませんか?」

 腕時計の針は十三時半。
これからの時間を逆算する。
買い物して夕食を作る時間は、ランチをしてもとれるだろう。

「何か予定がありますか?」

「ううん、今は大丈夫。夕方に義兄の家に行くからあまり遅くまでいられないけど」

 すると彼の表情が僅かに固くなった。