今日は我慢しない。



 しばらくして佐柳は体を離して私の手をぎゅっと握る。

 そして尻餅をついて呆然とするお母さんのほうに向き直る。

 

「母さん」


「っ……、だめよ、誠太」


「ごめん」



 佐柳はそれだけ言うと踵を返し、私の手を引っ張って歩き出した。



「っ、待ちなさい誠太!!」


 お母さんがそう叫んでも、佐柳は歩みを止めない。


「誠太!誠太!!」


 お母さんは喉が枯れてしまいそうな勢いで佐柳を呼び続ける。


「佐柳……?いいの?」

「……」


 佐柳は私の声かけも無視して、ズンズン前に足を運んでいく。


「待って……行かないでよ、誠太……っ」


 懇願するようなお母さんの声に、佐柳があからさまに反応して、歩みを止めた。



「あなたまで私を捨てるの?」



 ヤンデレ彼女みたいに言ったお母さんに

 私の中の何かがブチッと破裂した。



「はぁ?」



 いつもは働き者の理性がどこかへ消え失せて、私の眉間に苛立ちが集約する。



「今まで佐柳の心を捨ててきたのはあなたですよね?」

「え……?」