今日は我慢しない。




 ――セミはいいな


 余計なことは考えず

 本能のなすがままひたすら鳴いてればいいんだから

 たった数週間の命でも、全力で自分のしたいことをできるなんて





「誠太。これ来週から行く学校の資料だから一応見ておいて」



 夏の終わり。

 ぼーっと部屋の窓辺で死に際の蝉の声を聞いていた俺に、母さんが転校先のα専門学校の冊子をウキウキしながら渡してきた。

 表紙にはさわやかな笑顔を浮かべる男女の生徒。

 その表情は自信と未来への輝きに満ち溢れていて、αらしい。


「……」


 全部バカらしく見える。


「あなた、今までβの子たちに気を使って本来の力を発揮できなかったでしょう? これからは気を遣う必要がなくなるのよ。良かったわね」

「……うん」


 テキトーに返事をすると、母さんは満足そうに俺の部屋から出て行った。

 俺は資料を机に放って、再び窓の外を眺める。

 窓からは家の門扉と、その前を横切る道路が見通せる。

 夕方の空はもうすぐ夜を迎えようとしていて、自転車に乗った学生が通り過ぎていった。

 いつもだったら生徒会室にこもって作業して、そろそろ帰る時間だろうか。


 はじめて三条の発情に鉢合わせたときのことを思い出す。

 あの時も、こんな感じの空の色だった。