『ごめん。行けなくなった』


 行けなくなった……?

 遅刻じゃなくて?


「え……なんで……? あ、体調悪い?」

『いや……』

「? じゃあどうしたの?」

『……』

「佐柳?」

『……ごめん。とにかく行けない』


 は……?

 意味がわからない。

 謝ってほしいんじゃない。

 理由を知りたいだけだ。

 どうして言ってくれないの?

 言いたくない理由なの?



「……やっぱり、私と花火行くの嫌になった、とか?」



 それは、皮肉のつもりだった。

 当然そうじゃないって返ってくるものだって、それで自分自身を安心させたかっただけのセリフだった。



『……』



 セミの音がシュワシュワと耳をつんざく。

 電話口でひたすら押し黙る佐柳に、胸が引き裂かれそうに苦しくて悲しくなった。


 ……え?

 なんで何も言わないの?

 なにか言ってよ。

 せめて言い訳してよ。

 言ってくれないとどんどんマイナスな方向に勘違いしてしまう。




『…………』




 それでも佐柳は何も言ってくれない。