たくさんの人たちに混ざって電車からホームに降りると、履き慣れない草履がアスファルトを擦ってカラン、と音を立てた。
ミンミンと蝉の合唱が響く中、浴衣の中で汗が背筋をなぞる。
自分の汗の匂いが気になるけど、タオルでは拭ききれないから、諦めて考えないようにする。
改札へ向かう途中、掲示板にまさに今日行われる花火大会のポスターがあった。
今ホームにごった返してる人たちはみんな、この花火大会に行くんだろう。
掲示板のプラスチックに反射して映る見慣れない自分と目が合った。
動画を見漁って初めて自分で着つけた、お母さんのおさがりの赤い浴衣。
ちゃんと着れてるか、似合ってるか、不安で仕方ない。
髪も頑張ってお団子にしてきたけど、変じゃないかな。
ニュアンス程度にしたメイクも汗で溶けそう。
「ねぇ、あの人やば」
そんな声に視線を送ると女の子二人組と目が合って、パッとそらされた。
え……私?
〝やば〟って、どうヤバイ?
いつもはあまり気にしない外野の声が、今日ばかりは異様に気になって怖くなる。



