狂気のサクラ

沖縄料理の店を出た後、『近藤賢人』と調べてみた。
本当にボートレーサーで、A1という1番レベルの高いレーサーだった。
『近藤賢人
苦難を乗り越えての初優勝』
数年前のそんな記事がヒットした。
『近藤賢人
実妹が亡くなっていた』
そう続いていたが、詳細についてなどは一切書かれていないことに安堵した。けれど想像したくない最悪の事態だったことをはっきりと知ってしまい、やり切れない気持ちになった。
そしてマスコミュニケーションというのは本当になんでも拾うのだなと思った。
あれから数日、彼からメッセージが届くことはなく、もう終わりにできるのかもしれないと期待しながらも、彼の訪問に怯える日々だった。
『ちょっと会えるかな?』
直正からそんなメッセージが届いた。
週末の休日。若者で溢れたカフェで直正と待ち合わせた。時間ぴったりに現れた長身の直正は良く日に焼けやはり格好良く、近くにいた女の子の視線を感じた。
奥の方の2人掛けの席へ案内され、まるでカップルみたいだねと笑いながら珈琲を注文した。
彼とはこんな明るい時間にどこかへ出掛けたことはなかった。もう済んだ話だが。
ガラス張りの店内は陽の光が差し込み、とても明るいけれど、私はどうしても晴れた気持ちにはなれない。
「今井のこと聞いたよ。悠樹から」
店員が去ると直正はすぐに言った。
「うん」
「悠樹が女の子のこと相談?してきたの初めてだった」
「うん」
「まぁ、俺と凛ちゃんが繋がってるの知ってるから取り持ってほしい、てのがあるんだろうけど」
「うん」
あれほど直正との仲を疑っておいて随分と勝手だ。