さゆりの家から通勤を続け1週間が経とうとしていた。彼からは相変わらず、ごめん、会いたい、とLINEが届く。今井とのことが原因だと思っているのだろう。もちろんそれは理由のひとつではある。けれど今となってはそれだけの問題ではないのだ。
『鍵返してくれるなら会う』
私はこの言葉を返し続けた。
いつまでもさゆりの家に居座り続けるわけにもいかない。とりあえず1度部屋へ戻った。
久しぶりの部屋は蒸し暑く、温められた木の匂いが新築を思い出させた。
そして彼を思い出す。ふとした瞬間に彼を思い出す。それは恋しかった頃と同じくらいの頻度だ。けれどそれはもう恨みでしかない。その度に押し寄せる後悔の念と憎悪に呼吸が苦しくなる。とても嫌な出来事でしかなく、この穢れた記憶を消してしまいたい。彼の記憶からも消えてなくなりたい。こんな醜い感情は不必要でしかない。心的外傷はこんなことを言うのではないだろうか。
ピンポーンとインターフォンが鳴った。
ぎくりとした。
この部屋のベルを鳴らす来客はさゆりくらいだ。他の可能性を考えると息が苦しくなる。
ガチャン、と鍵を開ける音が響き、ドアの開く音が鼓膜に届いた。
「凛?」
彼だ。
呼吸が乱れる。どくどくと体中が脈打つそれは恐怖にも似ている。急に内臓の不快感に襲われた。
『鍵返してくれるなら会う』
私はこの言葉を返し続けた。
いつまでもさゆりの家に居座り続けるわけにもいかない。とりあえず1度部屋へ戻った。
久しぶりの部屋は蒸し暑く、温められた木の匂いが新築を思い出させた。
そして彼を思い出す。ふとした瞬間に彼を思い出す。それは恋しかった頃と同じくらいの頻度だ。けれどそれはもう恨みでしかない。その度に押し寄せる後悔の念と憎悪に呼吸が苦しくなる。とても嫌な出来事でしかなく、この穢れた記憶を消してしまいたい。彼の記憶からも消えてなくなりたい。こんな醜い感情は不必要でしかない。心的外傷はこんなことを言うのではないだろうか。
ピンポーンとインターフォンが鳴った。
ぎくりとした。
この部屋のベルを鳴らす来客はさゆりくらいだ。他の可能性を考えると息が苦しくなる。
ガチャン、と鍵を開ける音が響き、ドアの開く音が鼓膜に届いた。
「凛?」
彼だ。
呼吸が乱れる。どくどくと体中が脈打つそれは恐怖にも似ている。急に内臓の不快感に襲われた。
