狂気のサクラ

「自業自得、ざまーみろだわ」
そう言ったのはさゆりで、さゆりは鋭い目で彼を睨んだ。
「もう凛に関わらないでもらえますか?」
驚いた様子の彼にさゆりは続けて言った。
「鍵返してもらえますか?本人が返してほしいって言ってるのに返さないなんてあなた泥棒ですか?」
怒りに溢れた口調でさゆりは容赦なく言った。
「今持ってないから。後で連絡する」
そう言って大人しく踵を返した。今井に会いに行ったのだろう。
あんな怪我をしても私を心配して訪ねて来たことには少し胸が騒いだ。不思議なことに今は私を好きだという彼の気持ちが伝わってくる。
でも、それならばどうして私を裏切ったのだ。
その日は遅くまでさゆりが部屋にいた。さゆりが帰ってからも彼からのメッセージを開くことなく眠りについた。
朝が来て、気付けば涙が流れる。私は彼を許す気になれなかった。彼にかけた時間を悔やむ。注いだ情熱さえ惜しい。
あの夏に彼と出会い、狂おしいほど彼に惹かれた。
でも、思い出せば辛いことばかりだ。会えなくなったこと。連絡さえ取れなくなったこと。私物のように扱われてすぐ暴力にはしること。思い返せば返すほど涙が止まらなくなってくる。
あの人はやめておいた方がいい。会う人会う人そう言ったのに。
恋しくて寂しくて切ない気持ちならばまだ良かった。ただただ後悔するばかりだ。悔しくて悲しくて憎しみが湧き上がる。そんな汚い感情に支配されてしまう。自分がどんどん汚れていく。あの男のせいで。
膨れ上がる怒り。出会わなければよかった。私の人生に、間違いなく必要のない人間だった。