狂気のサクラ

「ごめん、でも凛とは別れたくない」
懺悔のように言った彼。まるで自分が傷付けられたかのように弱々しい。
「やり直してくれてから凛冷たかったし、寂しかった」
そんな言葉を消え入るような声で言った彼にまた怒りが込み上げる。
「寂しかった、って、今まで私に何してきたか分かって言ってるの?」
「分かってる。悪いと思ってる。最初あんなことがあって、それでも俺を思ってくれて、だから俺も本当に好きになった」
「本当に好きになった結果がこれなの?この間私に何て言ったか覚えてる?」
「本当に、本当にもう凛だけを見るから」
「昨日今井さん泊まってたんでしょ?抱いたんでしょ?」
「‥うん」
この男に言ってやる言葉すらもうない。
「帰るわ。2度と連絡して来ないで」
私は彼の部屋の鍵をテーブルに置いた。
「私の鍵も、返して」
「いやだ」
「返して」
「ごめん。本当に大切にする。誓うから」
焦がれて焦がれて仕方のなかった彼からこんな言葉を言われ、胸が痛くなるのは彼が恋しいからなのだろうか。
「凛がいないとだめなんだ」
きっとこんな言葉を言う男ではないはずだ。
怒りなのか悲しみなのか、また違う感情なのかも分からないけれど、涙が止まらない。
「もう絶対泣かせない。悲しませないから」
ただ涙が止まらない。この胸の痛みは悲しみだと気付く。もう1度信じようと思った。それでも信じきれなくて。でも心の中では信じていたくて。その答えがこれだった。散々裏切られ、またこんな裏切りを受けた悲しみだ。ここで終わりにしなければ、私は本当に彼から離れることができなくなる。