狂気のサクラ

私を見て驚く様子はない。きっと知っていたのだろう。
これは悲しみではなく完全に怒りだ。膨れ上がる怒りで身体が熱い。この事態をどう収集すれば良いのだろう。ここで彼をひっぱたいたところで何の解決にもならないだろう。
冷静に考えればいい方法があるのかもしれない。しかし冷静になどなれるはずもない。この場で浮気相手に矛先を向けない事が精一杯の利己だ。いつから今井と関係があったのか、聞かなければならないことは沢山ある。
今井は責めるように彼を見つめ、彼は顔色を伺うようにちらちらと私を見ている。
今主導権は私にある。
「2人で話したいんで今井さん帰ってもらえますか?」
彼に確認したいことがありすぎてその言葉が出た。後々考えれば3人で話すという選択もあったがこの時は思いつかなかった。
今井との再会がこんな場面だなんて残念で仕方がない。
「そう言ってるし、とりあえず帰ってもらえる?」
彼が今井にそう言った。その口調が妙に優しくて苛々した。
「鍵取ってくる」
今井は素直に彼の部屋へ入りすぐに出てきた。廊下にいた私たちの前を通り過ぎたところで振り返る。
「悠樹、ちょっと来て」
そう彼を呼んだ。
彼を『悠樹』と呼んでいる。いつからの付き合いなのだろうか。今井には付き合っていた人がいたはずだ。