狂気のサクラ

どくどくと鼓動が重い。インターフォンを押す。予想通り誰も出てこない。合鍵がある。施錠されていても大丈夫だ。試しにゆっくりをドアノブをまわす。
開いている。
今度は勢いよく扉を開けた。
人の気配がない。誰も居ない。靴も見当たらない。
部屋に入るとテーブルの上にいかにも女物の財布とキーケースが見えた。
この湧き上がる感情は怒りなのか悲しみなのか分からないけれど、理性を失ってしまいそうだ。
どこにいるのだ。
部屋を見渡す限りどこにもいない。どこかに隠れているのだろうか。こんな所には居ないだろうと思いながらクローゼットを開けてみた。当然だが姿はない。
勢いよく開いた衝撃で上の方からひらひらと何か落ちてきた。
床に着地したのは緑色の便箋のような紙だった。
なんだろうと手に取る。
手紙だ。
そこでやめておくという選択もあった。けれどこの場で正しい判断ができただろうか。そして何か証拠を掴みたいという思いに駆られた私はその便箋に目を落とした。
『悠樹くんへ
週末になると悠樹くんが会いに来てくれるのをいつも待ってた
でも悠樹くんは来てくれなくなったね
最近はLINEも返してくれなくなったね
他に好きな人でもできたのかな
とても悲しいけど最後の手紙を書きました。
今までありがとう
大好きでした
さようなら
もえ』
読み終わった後、鳥肌が立った。