狂気のサクラ

彼はいつものように私の部屋へ現れた。私の顔を見るなり、後ろ頭に手を掛け強引にキスをした。私の心はもうときめかなくなっていた。
私は彼を押し返して聞いた。
「忙しかった？今日」
「ん？普通」
彼は平然と嘘がつけるのだ。
「そう。疲れてるからもう寝るね」
私はすぐにベットへ入った。彼はしばらく携帯を触ってから隣に入ってきた。私は彼に背を向けて寝たふりをした。彼の温かさが寝苦しい。
朝になり目が覚めると彼は隣でまだ眠っていた。起こさないように起き上がろうとしたけれど、彼はすぐに目を覚まし私の体の上に重なってきた。
強引にキスして体を触ろうとしてくる。
「仕事行かないと」
私は彼の体を押し返そうとしたけれど、起きたばかりで力が入らない。
「すぐ終わるから」
彼はそう言い、ただの処理のように私を抱いた。彼に触れられた肩や腰から、どんどんと嫌悪感が広がる。
それでも彼を嫌いなったのかと言えばそれもよく分からない。あんなに好きだと思った相手を簡単に嫌いになれるはずもない。
そんな私の態度を感じ取ったのか、翌日は部屋に来れないと電話をしてきた。夜中のシフトに交代を頼まれ、朝まで『有楽』で働くと言ってきた。
不信感はもちろんあったけれど問い詰めても仕方がない。平気で嘘をつくならば、私のこともその程度にしか考えていないのだ。