狂気のサクラ

「ごめん、て肩も怪我したの?」
「ちょっと打っただけで」
「その顔もだよね?」
「さゆりには言わないでください」
「いや言わないけど、言わないけどさ、普通じゃないから。こんなこと普通にできるの普通じゃないよ。こんな時間に置き去りにするのも。何かあったらどうするの。女癖の悪い相手でも凛ちゃんがそれでも会いたいなら仕方ないのかなって思ってた。でもこれは全然話が違う。これは立派な犯罪だから」
「犯罪?」
見ないようにしていた彼の歪んだ感情。
「そうだよ。その人とは距離取らないと大変なことになるから」
「でも、私が怒らせるようなことしなかったら」
「凛ちゃん、しっかりして」
近藤の言いたいことは分かっている。こんなことは普通ではない、言われなくても本当は分かっていた。でもそれは彼が私を好きだという証でもある。きっと誰に言っても理解してもらえないだろう。私は黙り込むしかない。
「凛ちゃん、これは愛情じゃないよ。もしかしてこういう暴力みたいなの初めてじゃないんじゃないの?」
私はまた答えることができなかった。
「やっぱり」
近藤は深く息を吐いた。
「もう大丈夫です。帰ります」
今日も彼が部屋に来ると思った。彼の車に荷物を置いてきている。どのみち彼に会わなければ部屋には入れない。