狂気のサクラ

何が起こったか状況が飲み込めない。
私は雨上がりのアスファルトに肩から倒れ込んでいた。
彼が私を車から突き落としたのだ。
驚きと肩と膝の痛みで動けない。頬も地面に打ち付けられたようでじんじんと痛くなってきた。信号が青に変わると信じられないことに彼は私を残してアクセルを踏み込み走り去ってしまった。
ゆっくりと立ち上がる。ストッキングが破れ、膝から流血している。きっと頬も擦りむいているだろう。左肩がとても痛い。泥のついた袖を捲ると肩が赤く腫れていた。
こんな真夜中にこんな所で降ろされ、鞄も彼の車の中だ。携帯電話を握っていたのは幸いだった。ここで直正に返信すれば、彼にまた有る事無い事言われてしまう。
彼が戻ってくるのではないかとしばらく側道で待っていたが、そんな気配はない。私から連絡をして詫びる場面なのだろうか。謝罪しても彼は簡単に受け入れないだろう。混乱してきた。
さゆりを呼ぶこともできない。この事態を何と説明すれば良いのだ。
ここから徒歩で帰れば1時間、いやもっとかかるだろう。私は思案し、近藤の番号を選んでコールした。近藤は仕事で何日も返信がない時もあるのだか、今日は驚いた声で電話に出た。