狂気のサクラ

紺色のブレザー。近くの高校の制服だ。まだ幼さの残る若い肌に無理してのせたファンデーションと不自然に赤い唇。長い髪に短いスカート。違いが分からなくなるほど良く似た格好の2人の女子高生。
「藤原悠樹いる?」
片方の子が荒い口調で話しかけてきた。
「は?いません」
今井は苛ついた様子で答えた。
もう1人の子は、もういいから、と小声で言っている。
「よくないでしょ。覚えとけ、クズって言っといて」
そう言い残し逃げるように店を出て行った。
「なにあれ」
呆れた様子で言った今井にさぁ?と言ってみせたけれど、きっと彼が悪いのだと思った。あの高校生に対しても、きっと誠意のない態度をしたに違いない。
私はこの出来事をどう受け止めれば良いのだろう。
「香川さん今日で最後とか本当に残念だわ」
今井は彼のことなどどうでもいいのだろう。すぐに話題を変えた。
私も今井と働けなくなるのは残念だった。彼とのことでさゆりとは摩擦ができてしまっていた。さゆりと良く似たタイプの今井に甘えていたかったのかもしれない。

『有楽』を辞めてからの週末は時間を持て余していた。この数年間は時間があればいつもさゆりと一緒にいた。将来結婚しても近くに住んで一生友達でいようねとよく話したものだった。それなのにこんなに簡単に距離ができてしまった。気持ちがすれ違うというのは何も恋愛に限ったことではないのだ。
彼とたくさん一緒に居たくてこの部屋を借り、毎日彼に抱きしめられる日々は幸せだ。いつかさゆりも分かってくれるはずだ。