狂気のサクラ

いつもの枠に駐車して急いで階段を上がる。何と謝ればいいのか分からないけれど急いでインターフォンを押す。
風が強く雨が吹き込んでくる。
二度ほど押しても出てこない。
強い雨と風に打たれる。
私はしばらく立ち尽くしていた。冷たい雨に頭を冷やされたのかふと思った。
私はそんなに悪いことをしたのだろうか。
唇が切れ、脇腹にアザを作るほど責められなければならないことをしたのだろうか。
今空からこの場を見下ろすことができたなら、惨めな女がびしょ濡れで立ち尽くしているという滑稽な場面が映るだろう。
だんだん腹が立ってきてドアを何度も強く叩いた。
「うるさい、帰れ」
中から彼の声が聞こえた。
更にドアを叩く。
ガチャリとドアが開き、近所迷惑考えろ、と私を睨みながら彼は言った。ドアを施錠することなく彼は中へ戻っていき、私も部屋の中へ入ると彼はタオルを投げてきた。私が思いの外濡れていたので中へ入れる気になったのかもしれない。それならば雨に感謝するところだ。
彼はテレビを消してベットに座った。私はその傍まで行きまた立ち尽くす。
「お前直正とできんの？」
「そんなわけないじゃん。得意だから肩揉んであげるって言われただけだし」
「何でそうなるんだよ。お前が誘惑したんだろう」
「そんなことするわけないし」
私が彼以外の男の人に興味を持つはずがない。
「お前は隙だらけなんだよ。直正はお前に気があるからな」
「あるわけないし」
あるはずのないこと言う彼。
「分かるんだよ、俺には」
そんなことはあり得ないのに、自分の言うことを曲げない彼。
「私は悠樹くんしか見てないから。ごめんなさい」
「ふぅん。じゃ、脱げよ、服」