狂気のサクラ

「え?それであんなことする?」
否定しなかったからだろうか、直正は少し興奮気味に言った。
私は泣いてしまいそうになりながら唇を舐めた。
私も驚いた。一瞬、彼を怖いとさえ思った。
「悠樹が分からなくなってきた。女の子に手上げるなんて。しかもあれくらいのことで」
合間に来客もあり、会話は途切れ途切れになった。
すぐに私の帰る時間になった。直正の尋問より、彼の方が重大な事件だ。早く彼に会って誤解を解かないといけない。何が誤解なのか分からないけれど、とにかく怒りを鎮めてもらわなければ。
「上がります。さっきはありがとうございました」
「凛ちゃん、あんなことなかったら言わなかったけど、あれ見たから言うわ。悠樹女いるから、しかも何人も。凛ちゃん、悠樹はやめとけ」
直正が強い口調で言ったのは初めてで、それだけ真剣なんだと分かった。
私は軽く頭を下げてフロントを出た。
分からなくなっている。直正が嘘を言っているとは思えないし、他の女の子と連絡しているのも知っている。でも、彼に思われているのも抱かれているのも私だけなのではないかと思いはじめている。
急いで『有楽』を出て彼に電話をかける。予想通り何度コールしてもでない。何度目かで電源を切られた。彼の家はすぐ近くだ。自宅へ戻っていることを願って彼の家へ向かった。
車が停まっている。よかった。部屋にいるはずだ。