狂気のサクラ

昼を過ぎた頃直正が友人を連れて現れた。従業員は半額になるという特権を使いにきたのだ。混雑時は従業員の利用は禁止だと訴えた今井も直正のねだりに負け、直正を部屋へ通した。
「三宅くん出てこない。予約あるのに」
終了時間を過ぎても会計に来ない直正に今井は苛つきはじめた。
今井と彼が交代する時間も迫っている。
「私部屋見てきますね」
今井の返事も待たずに直正たちの入った部屋へ向かった。2階の真ん中あたりの部屋だ。電気は付いている。
ノックして入室すると直正が机を拭いていた。
「あ、片付けしてくれてたんですね」
「それくらいしないと今井に切れられる」
と、直正は笑った。
ですね、と私も答えた。
しっかり者の今井はポスト溝手と言われている。それは悪意ではなくみんな今井を頼りにしているからだ。厳しいけれどユーモアがあり本当は優しく、誰もが振り返るほどの美貌だ。今井を嫌う人などきっといないだろう。
「疲れたでしょ、忙しそうだったし」
「そうですね、肩凝っちゃいました」
私が首を回すと、揉んであげるよ、と直正は言った。
「俺そういうの勉強してるから」
大丈夫です、と言うより先に直正は私の背後に回ってきた。
「座って」
と、客室のソファーに強引に腰を下ろされられた。
「凝ってるね、人間、ここが凝るんだよ」
鎖骨の辺りを押されて痛気持ちいい感覚だったが、嫌な予感がしてきて、もう大丈夫です、と言った瞬間だった。
ガチャリとドアを開けたのは悠樹だった。