狂気のサクラ

並んでいたのは何人かの女性らしき人からのメッセージ
『もえ』という名前だけ認識できた。
ちくりと傷んだ胸。さゆりがそれで幸せなのかと問う理由がこういうことだと分かっている。しかしこうして私を家に呼んでいることで、他の子たちも彼を独占できてはいない。もちろん私もそうだ。今度はそういう男でもいいと受け入れることだ。
浴室のドアが開き彼が出てきた。
「寒い。寒くないの?」
エアコンのリモコンを押して彼が笑った。この笑顔を近くで見ていたい。この心地良い空気の中にいたい。ただそばにいたい。それだけだ。
「あの車悠樹くんの?」
「ん?あぁ、あの紺色のね。凛ちゃんも車買ったんだ」
「はい」
「新車?」
「いいな、俺中古だから廃車寸前だからな」
「そうなんですか?」
他愛のない話をしながら、もやもやとした気持ちを消す。
今はまだ、あの時の話をする時ではない。なかったことになどできないけれど、まだ胸に閉じておかなければならない。
「この部屋寒いからな」
彼は布団に入り携帯電話を手に取った。この状態で返信をしているようだ。それから電話を置き手招きして私を呼んだ。
彼は私を抱き寄せた。迷いなどない。今私に向けられている笑顔と、その手を掴みたいという思いだけがこの瞬間の真実だ。