狂気のサクラ

『車停めるところありますか?』
彼の家の近くでメッセージを送る。
『枠外に停めて。紺の車の隣』
すぐに返信がきた。
指示通り枠外に駐車し階段を登る。内臓が持ち上がるような錯覚。でもこれは痛みではなく期待の緊張だ。インターフォンを鳴らす指がかすかに震えるのも、寒さのせいではない。
部屋の中からガチャリと鍵を開ける音がした。
急にあの日の帰り際がフラッシュバックした。
「いらっしゃい」
ドアを開けながら彼が笑顔で迎えてくれた。
もしもまた同じことになってしまったら。今度は後先を考えられる余裕はある。
それでもいい。それでもいいと私はこの部屋へ、この空気へ飛び込んだ。
三度目の部屋は少しだけ雰囲気が違う。変わってしまったのはどこだろうと考えていた。
「俺シャワーしてきていい?適当にしといて」
「はい」
ベットとテーブルは変わっていない。あの日と同じようにベットとテーブルの間に座った。シャワーの音を聞きながら、絨毯が敷かれていることが変わったことだと気付いた。
LINEの受信音らしい音が聞こえた。音の方を見るとベットの脇で充電されている彼の携帯が光った。
本当に故意に見たわけではなかった。光ったディスプレイに表示された文字がたまたま見えてしまった。