『有楽』の仕事にも慣れ、年を過ぎ新年を迎えても彼と顔を合わせることはなかった。ただ事務所で確認すれば勤務時間も容易に知ることが出来たし、今井の会話にも彼はよく登場した。彼と直正が不真面目で困るとよく愚痴をこぼしている。
「まぁさ、フロントに男の子入れるのは溝手さんのお気に入り限定だから」
今井がそう言い、そうなんですか?と質問した。
言われてみればフロントは女性が多い。
「支配人がオーダー運びはなるべく男の子って言ってるみたいで。で、危ないから女の子2人でフロント立つようにって」
「そんなに危険あります?」
「ないな。私の経験上では。でも溝手さんと藤原くんはあれだから」
「あれって?」
「そっか。香川さん知らないんだね。溝手さんと藤原くん付き合ってたみたいよ」
溝手は私たちより随分と年上だったはずだ。それに彼は彼女はいないと言っていた。本当かどうかを確かめるすべはないがやはり胸は騒いだ。
「そう、なんですか」
「どっちかって言うと溝手さんが追いかけてたみたいな感じだと思うけど」
「あのチーフがですか。なんだか意外ですね」
小さくそう言うのがやっとだった。
冷静な溝手が彼の話をあれほどしてきたのも合点がいった。
「藤原くんってなんかモテるみたいだから。女の子の扱いに慣れてるというかバットボーイてきな?でもそういうのに惹かれてしまう子多いよね。私には理解できないけど」
「そうですね」
人事のように言った今井に相槌を打ったけれど、胸はズンと傷んだ。
知らなくても良かったことなのかもしれない。それでも彼のことならすべて知りたい。
私には彼がすべてだった。
「まぁさ、フロントに男の子入れるのは溝手さんのお気に入り限定だから」
今井がそう言い、そうなんですか?と質問した。
言われてみればフロントは女性が多い。
「支配人がオーダー運びはなるべく男の子って言ってるみたいで。で、危ないから女の子2人でフロント立つようにって」
「そんなに危険あります?」
「ないな。私の経験上では。でも溝手さんと藤原くんはあれだから」
「あれって?」
「そっか。香川さん知らないんだね。溝手さんと藤原くん付き合ってたみたいよ」
溝手は私たちより随分と年上だったはずだ。それに彼は彼女はいないと言っていた。本当かどうかを確かめるすべはないがやはり胸は騒いだ。
「そう、なんですか」
「どっちかって言うと溝手さんが追いかけてたみたいな感じだと思うけど」
「あのチーフがですか。なんだか意外ですね」
小さくそう言うのがやっとだった。
冷静な溝手が彼の話をあれほどしてきたのも合点がいった。
「藤原くんってなんかモテるみたいだから。女の子の扱いに慣れてるというかバットボーイてきな?でもそういうのに惹かれてしまう子多いよね。私には理解できないけど」
「そうですね」
人事のように言った今井に相槌を打ったけれど、胸はズンと傷んだ。
知らなくても良かったことなのかもしれない。それでも彼のことならすべて知りたい。
私には彼がすべてだった。
