狂気のサクラ

ドアを開けて飛び込んできたその光景。きっと脳が錯覚してしまったのだろう。色のないモノクロ写真のようだ。
私に気付いた今井が、身体を震わせ涙で潤んだ大きな目を見開く。震えた両手から、カランと音を立てて刃物が滑り落ちた。
その音で脳の回路がリセットされたのか色が戻った。
今井の細く白い指は汚い真紅の血で染まり、頬に返り血を浴びている。
一瞬既視を感じた。それこそ脳の錯覚で、こんな惨劇を見た記憶などあるはずがない。
ブラインドが邪魔してここからは今井の姿しか捉えることができないが、それだけですべてを悟った。
そうだ、デジャブを感じたのは私の想像の中の構図と同じだったからだ。ただ、可哀想なヒロインが私でなく今井に変わった。
そう、これはいつか今井が提案したのだ。自衛官の恋人が浮気をしたら息の根止めてやる、と笑って話していた。不意を突いて首筋を狙うのが1番だと教えてくれたのは今井だった。
彼女はこちらをみて少し唇を動かせてから、その場に崩れ落ちた。
恐怖などない。妙な抑揚感を抑えながら唾をのんだ。
生臭さと鉄の臭いが広がる中で、私は驚くほどに冷静だった。