カスミソウのキモチ

 どこをどう突っ込めばいいのか。ていうか、突っ込んでいいのか?
 なんかよく分からないけど、笑いがこみ上げてきた。いやぁ、おもしろい。めちゃくちゃおもしろいな、こいつ。

 ゲラゲラ笑い出した俺を、桔平がまたじっと見つめてきた。

 無表情なのに愛嬌があるように感じるのは、なんでだろうな。こいつのこと、もっと知りたくなってきた。

「なぁ、もうちょい話したいんだけどさ、うちに来ない?」
「……楠本翔流の?」
「なんでフルネームだよ。翔流でいいってば。てか明日は休みだよな? なんなら、うち泊まる? 俺、桔平と仲よくなりたい!」

 桔平が、初めて表情を動かした。ほんの少し眉を上げて、ほんの少し目を見開く。めちゃくちゃ小さな変化ではあるけど、妙に嬉しい。

「……それなら、うち来れば。ひとりだし」

 視線を外して、桔平が言った。

「え、ひとり? 親御さんは仕事?」
「いない」
「え……」

 やばい、センシティブな話題に触れちゃった? ……と、思ったら。

「……いるけど」
「どっちだよ!」
 
 つい鋭いツッコミを入れてしまった。
 なんだよ。なんなんだよ。冗談ってこと? 真顔すぎて分かんねぇよ! いろいろと独特すぎんだよ!

「親は、いる。一応。横浜に」
「あぁ~、一緒に住んでないってことね」

 こくりと頷く桔平。最初からそう言えよ。コミュ障か。
 まぁいいや。なんかこの独特さは癖になりそうな気がする。ていうか、すでになっているかも。

「で、本当に家行っていいの? ガチで泊まるよ?」
「飯はなんもねぇけど」
「いいよ、コンビニでなんか買うし。でも1回服とか取りに帰るから、場所LINEしといてー」
 
 こうして、ナチュラルにLINEを交換。お、桔平のアイコンは風景画か。なんかどっかで見たことがあるような……おっと、駅に着いちゃった。

 いったん桔平と別れて、急いで家へ帰る。やっぱり、まだ誰も帰宅していない。

 両親は都の職員で、ふたりとも部署は違うものの、毎日忙しそうにしている。大学生の兄貴は夜遅くまでバイトをしたり彼女の家に泊まりに行ったりで、家で夕飯を食べることは少ない。

 とりあえず母親にLINEしておくか。とっとと着替えて、早く桔平の家へ行こう。

 ああ、でもちょっと腹が減ったな。なんかひと口食うもん……お、冷蔵庫にシュークリームがある! そうだ、昨日買ったやつじゃん。よし、これ食ってから行こっと。

 えーと、桔平の家は駅からどんくらい……って、目の前じゃんか。白金の高級マンションでひとり暮らしかよ。どうなってんだよ、浅尾家って。
 ん、待てよ。浅尾……芸術……風景画……あれ、もしかして桔平の父親って……。