サマーリボン − つながるきずな −

朝食が終わったあと、ステラお姉ちゃんが提案してくれた。
「今日はロンドンの街を案内するわ。バッキンガム宮殿とか、みんなが行きたいって思うところ、ぜんぶ回れるように計画したの」

「えっ、そんなの夢みたい!」
「やばい、観光名所フルコースじゃん!」咲姉もテンション上がってる。

お父さんはすかさず手帳を広げて「効率よく回るには——」と真剣に考え始める。
「タクヤ、旅行会社の人みたいよ?」とお母さんが笑って肩をつつく。
「だって限られた時間なんだ、無駄にはできないだろ」
「でも、寄り道するからこそ思い出になるのよ」

二人の会話がなんだか微笑ましくて、私は自然と笑ってしまった。

その横で葵兄は腕を組み「ふーん」とそっけない。
「……別に観光とかはどうでもいいし」
「そう言いながら、昔から一番はしゃぐのは葵なのよ」
ステラお姉ちゃんがくすっと笑うと、葵兄は真っ赤になって「はしゃいでねーし!」と反論してた。
午前十時。
私たちは二台の車に分かれて、ロンドンの街へ出かけた。
運転はおじいちゃんとお父さん。助手席にはおばあちゃんとお母さん。
私と咲と葵兄は後部座席でわいわいしていて、ステラお姉ちゃんは別の車に乗っていた。

「最初はどこに行くんだっけ?」
咲が窓の外を眺めながら聞くと、お父さんが前から答えた。
「バッキンガム宮殿だ。ちょうど衛兵交代の時間に合わせてある」
「さすが父さん、計画性ありすぎ」
葵兄が小さくつぶやいて、私と咲は吹き出した。

* * *

宮殿の前は、もう観光客でいっぱいだった。
赤い制服に黒い帽子をかぶった衛兵さんたちが行進していて、そのきびきびした動きに私は目を丸くした。

「わぁ……テレビで見たやつだ!」
「ほんとだ、すごい迫力……!」咲も夢中で写真を撮っている。

ステラお姉ちゃんが英語で現地のガイドさんに質問して、いろいろ説明してくれた。
「この儀式は、何百年も前から続いてる伝統なのよ」
「へぇぇ……」
横で葵兄が腕を組みながらも、しっかり耳を傾けてる。
……やっぱり気になるんじゃん。

そのとき、お母さんが小さな声で言った。
「……こうして三人を並べて見ると、やっぱり兄妹なんだなぁ」
「え?」私が聞き返すと、お母さんはふっと微笑んだ。
「表情とか、目の動かし方とかね。血のつながりって不思議よ」

お父さんも宮殿を見上げながら、ぽつり。
「俺は……ステラと一緒に来たことがあったな。小さい頃、肩車して……」
その声が少し震えているのに気づいて、私は胸がぎゅっとなった。
ステラお姉ちゃんはお父さんの方を見て、少しだけ柔らかい笑顔を浮かべた。

* * *

次はビッグ・ベン。
川沿いにそびえる大きな時計台を見た瞬間、咲姉が歓声をあげた。
「でっかーい!教科書で見るよりずっとかっこいい!」
「わたしも写真撮る!」
夢中でカメラを構える咲姉の横で、おじいちゃんは真剣に時計を見上げていた。
「Time… important. Family time… most important.」

英語だったけど、意味はすぐにわかった。
お父さんが小さくうなずいて、
「そうだな。時間は戻らないからな……」とつぶやいた。

* * *

お昼はテムズ川の見えるカフェで。
お母さんがみんなにサンドイッチを配りながら言った。
「せっかく来たんだから、ゆっくり味わわないとね」
「母さんはやっぱり“のんびり派”だな」
「それが一番の贅沢なのよ」

私たちはテーブルを囲んで、みんなで笑いながら食べた。
葵兄は普段より口数が少ないけど、ステラお姉ちゃんが英語で何か言うたびに、必死に理解しようとしている。
咲姉は写真を撮りまくってて、スマホの容量が心配なくらい。
お父さんとお母さんは顔を見合わせて、なんだか幸せそうに微笑んでいた。