サマーリボン − つながるきずな −

翌朝、私たちはイギリスでの初めての朝を迎えた。

目を覚ました瞬間、カーテンのすきまから差し込むやわらかい日差し。
聞こえてくるのは、小鳥のさえずりと遠くの教会の鐘の音。

「……おはよ、咲姉」

「ん〜……おはよ……ここ、ほんとにイギリス?」

「夢じゃないよ、たぶん」

廊下に出ると、もう誰かの声がする。
階段を下りてリビングに行くと——

「Good morning!」
にっこり笑うステラお姉ちゃんが、エプロン姿で立っていた。

「えっ!? お姉ちゃん、料理してるの?」
驚いて声をあげると、ステラは笑いながら答えた。
「今日はね、Grandmaに教わってイギリス風の朝ごはんを作ってるの」

テーブルには、ベーコンやスクランブルエッグ、それにトーストや紅茶がずらっと並んでいて、まるでドラマに出てくる朝食シーンみたい!

お母さんはそんな光景を見て、嬉しそうに言った。
「すごい……ステラ、もうすっかり“お姉ちゃん”って感じね」
「母さん、褒めすぎ」
葵兄が小さくつぶやいたけど、耳がちょっと赤いのを私は見逃さなかった。

そこへ、おじいちゃんが新聞を持って入ってきた。
「Good morning, everyone.」
その低い声に、私も咲姉も思わず背筋をピンと伸ばす。

「お、おはようございます……!」
「Good morning, Grandpa!」

おじいちゃんはにっこり笑って、私に向かって親指を立てた。
「Good! Very good!」

するとお父さんが笑いながら言った。
「父さん、茜は昨日から英語に挑戦してるんだ。頑張り屋だから、たぶんすぐに追いつくよ」
「Takuya… she is smart girl.」
おじいちゃんがそう言うと、お父さんの目が少し潤んだ気がした。

テーブルにつくと、おばあちゃんが言った。
「さぁ、みんなそろって“いただきます”をしましょう」

「イタダ…マス!」
おじいちゃんが真剣な顔で発音する。そのぎこちなさに、みんな大笑い。

「ふふ、いい雰囲気ね」
お母さんが笑いながら、紅茶を注いでくれる。
「ねぇ、こうやって全員そろって食事できるなんて、何年ぶりかしら?」

お父さんはトーストを手にしながら、ぽつり。
「伊代が生まれたとき以来……かもしれないな」
その声は少し震えていた。
「ずっと、こうしたかったんだ。……遅くなってごめんな」

急に真面目な空気になって、私は思わず手を止めた。
すると、お母さんがそっとお父さんの肩に手を置いた。
「いいのよ。大事なのは“今”でしょ?こうして、みんな笑って同じテーブルに座ってる。それだけで十分よ」

その言葉に、おばあちゃんもにっこり。
「そうよ。過去より、これからが大事だもの」

おじいちゃんも、短くうなずいて言った。
「Family… together. Very… beautiful.」

紅茶の香りと、みんなの笑い声。
——その瞬間、「ああ、私たちはちゃんと家族なんだ」って、胸の奥から感じられた。