サマーリボン − つながるきずな −

side:茜

お正月の二日目。
朝起きると、台所からいい匂いがしていた。
「おはようございまーす」って声をかけたら、おばあちゃんがエプロン姿でにっこり笑ってくれた。

「茜ちゃん、起きるの早いわね」
「へへ、なんか楽しみで」

食卓には、おじいちゃんが新聞を広げていて、お父さんとお母さんはお味噌汁のお椀を並べている。
日本のお正月の朝って感じ!

そこへ——ステラがやってきた。
寝起きなのに髪をきれいにまとめていて、ふわっと笑顔を見せる。
「おはよう……みんな」
「おはようございます!」
思わずぺこっと頭を下げたら、ステラが小さく吹き出した。
「茜、まじめすぎ」
「ええ!?だってなんか……!」
「ふふ、かわいい」

……ズルい、この人。
褒められると、なんか照れるんだよね。

* * *

そこへ、葵兄がゆっくり降りてきた。
「……おはよ」
「おはよ、葵」
ステラが先に声をかけると、葵兄は少し驚いたように一瞬固まった。
けど、昨日までよりも自然に——ちゃんと顔を上げて「おはよ」って返してた。

その様子を見た咲姉が、小声で私の耳にささやく。
「ねぇ……なんか、空気ちがわない?」
「わかる。昨日までより、普通に話してる」
「え、これって……」
「なに?」
「……兄妹っていうより、幼なじみっぽい感じ」
「それって……どういう意味?」
「さあ?」

咲姉はにやにや笑って、ごまかした。

* * *

朝ごはんが始まると、祖父母も交えてにぎやかだった。
「ステラ、お雑煮はどうだ?」
「おいしい! でも、おもちは……のびる!」
ステラが必死におもちを箸でつまんで、びよーんって伸ばすたび、みんな大笑いした。
「ほら、気をつけろよ。喉につまるから」
葵兄が横からさらっと注意して、ステラの器に小さめのおもちを移してやる。
「……ありがとう、葵」
「別に」

そのやり取りを見て、おばあちゃんがにっこり笑った。
「やっぱり、双子ね」
「……え?」
「言葉にしなくても、自然と気づいて助け合ってるもの」

ステラと葵兄は一瞬、目を合わせて、そろって顔をそむけた。
でも、耳がちょっと赤い。
——ほんとに、仲良しなのかも。

私は思わず声に出してた。
「……やっぱりステラお姉ちゃんがいて、よかったな」
するとお母さんが、やさしく微笑んだ。
「そうね。これからは“もうひとりの姉”じゃなくて、ちゃんと“家族”なんだから」

その言葉に、ステラが胸に手を当てて、ゆっくり日本語で言った。
「……わたしも、そう思う」

リビングの空気が、やわらかく広がった気がした。